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心とはなにか 仏教の探求に学ぶ
本の紹介
  • 竹村 牧男 (たけむら まきお)
  • 出版社・取扱者 : 春秋社
  • 発行年月 : 2016年8月20日
  • 本体価格 : 本体1,900円+税

第一章 心とはなにか
第二章 心の分析
第三章 「真実の心」の発見
第四章 日本仏教に見る心
第五章 まとめ-他者に関わる心へ
あとがき

「心」を論究していく書籍は決して珍しくはないが、本書のサブタイトルにあるような、仏教の探求を通して言及した書籍は多くないのではないだろうか。2500年以上の歴史を持つ仏教思想のなかでも、とりわけ「唯識」と呼ばれる思想は、しばしば「こころの仏教」と称されるほどに「心」を深く追究していることで知られる。その唯識思想に精通した著者が、「心とはなにか」をテーマとして種々の仏教的見地、すなわち原始仏教や唯識思想、あるいは禅や真言・浄土教などの幅広い視点から、わかりやすく解説したのが本書である。

今日、さまざまな場面で「心」にかかわる問題が取り上げられている。著者は、そのような社会的事情を踏まえて「宗教への関心が薄れている現代だからこそ、仏教の到達した心に注目して、今一度、心の主体性を回復し確立していく必要があると思います。この心を見直し掘り下げるところに、実は現代社会の問題を解決していく足場があると思うのです」(187ページ)と述べて、社会的な課題を解決するのに仏教が大きな役割を持ち得ることを指摘している。ここでいう「仏教の到達した心」の具体的な内容は、種々の観点から示されているが、どれもコンパクトにまとまりながらも丁寧な解説が施されており、難しい印象は感じられない。

本書は親しみやすさに加えて読みやすさも備えていながら、仏教において心がどのように探究されてきたか、そのさまざまな様相を知ることのできる格好の一冊である。仏教に興味を持つ方だけでなく、「心」に関心を寄せる多くの方に手にとっていただきたい。


評者:佐竹 真城(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2016年12月13日