- 出版社・取扱者 : 新潮社(新潮新書)
- 発行年月 : 2016年9月20日
- 本体価格 : 本体760円+税
目 次 |
はじめに 第一章 宗教に運命づけられた人間 第二章 自利から利他へ 第三章 対照的な晩年 第四章 魅力の根源を探る 第五章 生ききること、死にきること 付録 それぞれの生涯・思想・歴史 おわりに 主要参考文献 |
---|
仏教の開祖である釈尊(ブッダ)、浄土宗を開かれた法然聖人。本書はこの両者の生涯と思想を対比させながら、その特徴を明らかにする。
仏教は、すべての苦を離れた悟りの境地に到達することを目的とする。釈尊は、心の在り方を追究することで、その境地に到達した。法然聖人は、自力の修行ではなく、「南無阿弥陀仏」のお念仏によることを説く。両者とも、従来の常識を覆し、新たな枠組みを提示したのである。
釈尊は、当時のインドで正統とされてきたバラモン教の祭祀(神に生け贄を捧げる宗教儀礼)を採用せず、カースト制度による身分にとらわれなかった。法然聖人は、それまで低度の行いとして扱われていた称名念仏(口に「南無阿弥陀仏」と称えること)を、仏の願いにかなったものと位置づけ、誰もが救われると説いた。釈尊も法然聖人も、真実を見出し、それが結果として常識とされてきた価値観を覆すこととなり、新たに示した価値観が後世に多大な影響を残したのである。
著者は「仏教は時代や地域の特性に応じてブッダの教えを解釈し、ときには大胆に解釈しなおす」ことで生き延びてきたと述べる。その上で、継承するべきものを見極めて、時代や地域、人々に応じて、新たな段階に進むことの必要性を強調する。これは、仏教に限らず、個人の生き方などについても言えることである。釈尊や法然聖人を知るに留まらず、自身の在り方を考える手がかりとなる一冊である。
評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)
掲載日:2016年11月14日