HOME > 読む! > 仏教書レビュー > 本の紹介

暮らしに生かす唯識
本の紹介
  • 楠 淳證 (くすのき じゅんしょう)
  • 出版社・取扱者 : 探究社
  • 発行年月 : 2013年5月30日
  • 本体価格 : 本体351円+税

はじめに
第一話 誤認の世界(遍計所執性)に生きる私たち
第二話 はかない命(依他起性)を生きる私たち
第三話 真実(円成実性)を求め真実に生きる道
第四話 命を見つめる暮らし
第五話 命の終わるとき-臨終正念と来迎-
第六話 悪き「こころ」と善き「まなこ」
第七話 大悲に身を置く暮らし
第八話 仏に成る道-「一念の哀れみ」から始めよ-
謝辞
龍谷大学文学部仏教学科の紹介

私たちは同じものを見ていても、それに対する見方・感じ方は人それぞれである。しかし人は自分の見方に固執しがちで、それ以外の見方に考えが及びにくい。結局、自分を取り巻く環境のあり方(見え方)は、自身の心に左右される。本書では、これを唯識思想(「全ては心の表れである」という思想)によって説明していく。そのうえで、私たちを固執から解き放つものが仏教であると示す。固執を離れることによって、世界を「あるがまま」に見る目が養われていくのである。

さらに本書は、法相宗(唯識思想を教義の中心とする宗派)の学匠の著書を引用しながら、慈悲の精神とその実践を述べていく。唯識思想もまた、慈悲を強調する大乗仏教であることを改めて気づかせてくれる。

唯識思想では、複雑な理論が展開されている。そのため、唯識思想について「難解」「縁遠い話」と思われることが少なくない。しかし本書は、唯識思想が日常生活を見直す手がかりとなることを教えてくれる。唯識思想を、より身近に感じさせてくれる一冊である。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2013年10月10日