- 出版社・取扱者 : 朝日新聞出版(朝日文庫)
- 発行年月 : 2013年1月30日
- 本体価格 : 本体720円+税
目 次 |
序に代えて(吉田 光邦) はじめに 一 キッチュの意匠 二 明治時代の葬送 三 霊柩車の誕生 四 霊柩車についての断章 五 消えゆく「宮型」-文庫化にあたっての補筆- あとがき 選書版へのあとがき 文庫版へのあとがき 解説(水道橋博士) |
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以前と比べれば減ってきたが、霊柩車というと独特なデザインの「宮型霊柩車」を思い浮かべる人が多いであろう。本書は、霊柩車出現の経緯を通して葬送文化の変遷を探っている。
霊柩車出現以前、明治期の葬儀では人々が葬祭場まで棺と共に列をなして行進する「葬列」が一般的に行われていた。もともとはひっそり行うものだっだが、ほどなく、多額の費用をかけて世間に見栄を張るパレードと化した。縁談を期待してか、若い女性を振り袖姿で参列させることもしばしばだったという。しかし華美な葬儀が批判の対象となり、大正期には葬儀の簡素化が進んだ。この風潮を葬儀業者が「流行に流され、倫理に反する」と批判したが流れを変えることはできず、「経費と時間の節約」のため考え出されたのが霊柩車であった(当時、自動車は大変な高級品である。それでも、その使用料は葬列の諸経費より安価だった)。宮型霊柩車のデザインは、パレードのような葬列の名残だという。
葬儀は亡き人を悼む厳粛なものである。しかしそれが全てではなく、「厳粛」以外の要素が葬儀のあり方をかなり左右していることを本書は教えてくれる。本書の初版は1984年であるが、葬儀のあり方が議論される今、復刊された意義は大きいと言えよう。
評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)
掲載日:2013年4月16日