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「瓢鮎図」の謎 国宝再読ひょうたんなまずをめぐって
  • 芳澤 勝弘 (よしざわ かつひろ)
  • 出版社・取扱者 : ウェッジ
  • 発行年月 : 2012年9月30日

はじめに
第一章 賛詩の意味
第二章 賛詩をどう解釈するか
第三章 画の意味するところ
第四章 「瓢鮎図」のその後
対談「瓢鮎図」をめぐって(芳澤勝弘×ノーマン・ワデル)
あとがき

「私たちは知らず識らずのあいだに、どうしても自分中心の思考形式にとらわれてしまうことになりがちです。そういう意味では、室町時代の禅僧たちの『瓢鮎図』の難解な賛詩は、六百年ののちに、私たちの思考回路を試しているようにも思えます」(あとがき)

如拙(生没年不詳)の描いた「瓢鮎図」は日本水墨画の源流とも言われる作品で、教科書などで目にしたことがあるかもしれない。「瓢」は瓢箪、「鮎」は本来の意味である「ナマズ」をあらわす。山水画に描かれた、瓢箪をもった男とナマズ。これらの意味することは何か。

室町4代将軍・足利義持(1386~1428)が如拙に描かせたこの画は、同じく義持の命で31人の禅僧が書いた詩文(賛)とセットになる。本書は画と賛の両面から「瓢鮎図」の解明を試みる。なかでも力が入れられているのは、これまでは十分な解説がなされてこなかった賛の部分である。

賛自体はどれも長いものではない。しかし、だからこそ読解は困難を極める。それぞれの賛が、経典や禅の語録、中国の故事などをもとに作られているため、たとえ漢文が読めたとしても「ナマズが竹を登る」「沙を蒸して御飯にする」といった表現は到底理解できない。禅僧たちの膨大な知識量には驚嘆するばかりである。

「瓢鮎図」を理解するために、同時代に生きた禅僧の言葉を読解する。そのために、背後にある思想に遡っていく。このプロセスは現代に生きる私たちに「学び方」を教えてくれる。そして、何よりもこの一冊が私たちに多くの知識を与えてくれる。


評者:真名子 晃征(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2013年4月16日