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讃題の例と解説 / 解説14

しかれば、大悲の願船に乗じて光明の広海に浮びぬれば、至徳の風静かに衆禍の波転ず。すなはち無明の闇を破し、すみやかに無量光明土に到りて大般涅槃を証す、普賢の徳に遵ふなり、知るべしと。

(行文類、註釈版189頁)

現代語訳

そこで、本願の大いなる慈悲の船に乗り、念仏の衆生を摂め取る光明の大海に浮かぶと、この上ない功徳の風が静かに吹き、すべてのわざわいの波は転じて治まる。すなわち、迷いの闇を破って、はかり知ることのできない光明の世界に速やかに至って、仏のさとりを開き、衆生を救うはたらきをさせていただけるのである。よく知るがよい。(『教行信証(現代語版)』114頁)

全体の味わい

念仏を信受したものの受ける功徳について、親鸞聖人が感動をもって讃嘆されるご文です。

真実信心の念仏の行者は、大悲の本願をいただいて、光明の中に摂め取られ、本願のはたらきによって苦悩の中にも浄土へと至る安心の人生を歩ませていただくのです。この世のいのち終えた時には、必ず速やかに浄土に生れ、この上ないさとりを開かせていただき、衆生を救うはたらきをさせていただけるのです。

阿弥陀仏の本願力が口にあらわれ出た念仏の功徳を味わわせていただきましょう。

み教えのポイント

念仏は正定の業

  • ・「名号を称えるものを救う」という阿弥陀仏の本願を疑いなく聞き受けて、本願に誓われているとおり、口に南無阿弥陀仏と名号を称えることを念仏というのである。
  • ・念仏とは、私を浄土へ往生させる阿弥陀仏の本願のはたらきが、そのまま口にあらわれていることであるから、正しく阿弥陀仏の浄土へ往生することの決定する行業となるのである。

大悲の願船と至徳の風

  • ・南無阿弥陀仏の名号を、全てのものを乗せてさとりの岸へと渡す大きな船にたとえ、阿弥陀仏の本願のはたらきを、その船を動かしている追い風にたとえられている。
  • ・阿弥陀仏の大悲そのものである名号の船に乗って、摂め取って決して捨てないという暖かい光明の照らす人生の大海原に浮かべば、この上ない功徳の風が静かに吹いて、浄土へと送り届けてくださるのである。

法話作成のヒント

ともに歩んで下さる阿弥陀仏

  • ・本願を信じ念仏しているということは、南無阿弥陀仏の名号という船に乗せていただいて、果てしなく広い生死の苦海を渡っているようなものなのです。
  • ・本願力に出遇うことで、無明の闇に閉ざされていた生死の苦しみの世界には、すでに阿弥陀仏の智慧の光明がくまなく照らしてくださっていたことに気付かされます。

衆禍の波転ず

  • ・阿弥陀仏の本願力をそのままいただく念仏者は、本願のはたらきによって、禍いが転換されるのです。人生のさまざまな出来事について、その深い意味を新たに知らせていただくことで、より豊かな人生を歩ませていただけることの有難さを味わわせていただきましょう。

語釈

  1. 衆禍の波
    もろもろの禍を海の荒波にたとえたもの
  2. 無量光明土
    阿弥陀仏の浄土のこと。はかりなき光明の世界。
  3. 大般涅槃
    すぐれて完全なさとりの境地
  4. 普賢の徳
    『浄土和讃』「普賢の徳に帰してこそ」(註釈版559頁)の左訓には、「われら衆生、極楽にまゐりなば、大慈大悲をおこして十方に至りて衆生を利益するなり。仏の至極の慈悲を普賢とまうすなり」とある。

補足説明

  • ・念仏者は、この世のいのち終えた時、阿弥陀仏の本願のはたらきによって、速やかに限りない智慧の光の世界に生れ、この上ないさとりを開かせていただくのです。
  • ・さとりを開かせていただくということは、全てのものを救わずにはおれないという大悲の心が開かれることです。だからこそ、浄土へ往生し成仏した念仏者は、大悲の心にもよおされ、生死の苦しみの世界に還り来って、普賢菩薩のような自在の救済活動をさせていただくことになるのです。