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例話の紹介 / (3)子連れの旅路

【概要】

ある人が、たくさんの我が子を連れて旅をしていた。はじめて通る道でもあり、人に尋ねようにも周りに人は見あたらない。
しばらく歩いているうちに、思いもよらず民家の裏庭に出た。長旅から子どもは足を痛めてしまい、疲れきっている。日は西に傾いて日暮れも近い。はやく町に着かなければならない。
この家の裏庭を通っていければ町には近い。しかし、勝手に通るわけにもいかないと思いながら中を覗くと、家の主人が裏に出ている。ならば、この人に願い出て許しをもらい、裏庭を通らせてもらおう。旅人は家の主人のもとへ歩み寄り、この庭を通らせてほしいと願い出た。
私一人なら遠い道のりも苦ではありませんが、お見かけのとおり子ども連れ。すでに日は西に傾き、子どもたちは足を痛めております。どうか、この裏庭を通らせてくださいませんか。
家の主人は、こころよくこれを許した。親である旅人の願いと行動が実を結び、道のないところに道ができた。こうして子どもたちは、安心して町まで行くことができたのである。
六道の迷路にうろたえ、ようやく人道までやってきた私であったが、成仏の本道に出るまでは遙かに遠い。涅槃の町に着くためには、三祇百劫の年月を経、五十二段の難所を越えねばならない。智慧戒行の足は疲れはて、これではしょせん一歩も行くことはできず、真っ暗な闇路に迷うより、ほかに道はない。
ところが阿弥陀如来の親さまは、真理の主人に願い出て、私一人ならどうにでもなるが、何といっても十方衆生の子ども連れ。これではとても本道を回っていくことはできない。願わくば、この裏庭を通らせてくだされば、涅槃の町へはすぐ近くと、五劫の願いに永劫の勤めをなし遂げてくださった。
ついに真理の主人の許しをうけ、阿弥陀如来さまは、道のないところに、易行の大道を開いてくださり、誰が通ってもよろしいと、三毒五欲のこの私を、このままながらに涅槃の町へと導いてくださる。それもこれも「報土の因果誓願に顕す(報土因果顕誓願)」(註釈版206頁)と、阿弥陀如来さまの誓願のお力一つであった。

【解説】

  • ・阿弥陀如来の本願の救いが易行の大道であることをあらわす例話です。『教行信証』「総序」には「愚鈍往き易き捷径(愚かなものにも往きやすい近道)」(註釈版131頁)と示されています。
  • ・七里恒順『七高僧七席法話』(顕道書院)より。