- 出版社・取扱者 : 中央公論新社(中公新書)
- 発行年月 : 2017年01月25日
- 本体価格 : 本体860円+税
目 次 |
まえがき 序章 浄土真宗の前夜 第一章 法然とその門弟 第二章 親鸞とその生涯 第三章 親鸞の信仰 第四章 家族それぞれの信仰-恵信尼・善鸞・覚信尼- 第五章 継承者たちの信仰-如信・覚如・存覚- 第六章 浄土真宗教団の確立-蓮如とその後- 終章 近代の中の浄土真宗-愚の自覚と現在- あとがき 主要参考文献 |
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本書は、歴史学を専門とする著者が、親鸞聖人やその家族、後継者の教えや信仰のあり様を明らかにすることを目的として書かれている。本書の「まえがき」で著者は、「親鸞の生きた時代には、経典読誦や念仏は呪術であり、それによって現世利益を期待し、さらには極楽に往生できると考えることが当たり前であった」と述べる。阿弥陀仏の他力によって往生浄土を説く親鸞聖人の教えは革新的であるが、呪術が日常的に行われていた時代の人々に容易に受け入れられたかどうかは疑問であると言う。そこで、「信仰のあり方」を視野に入れながら論を進めていく。具体的には、師・法然聖人やその弟子、親鸞聖人とその妻・恵信尼公や長男・善鸞、継承者としての孫・如信上人、曾孫・覚如上人、玄孫・存覚上人、さらには真宗教団を確立した蓮如上人の教えと信仰を、関連する史料や、さらに当時の政治状況をもとに検証していく。
著者のアプローチの特徴は、呪術信仰との密接な関係性に注目したことである。中世においては、呪術による現世利益を願うことは一般的であり、呪術的な信仰の在り方を完全に排除することは困難であったと言う。その上で、親鸞聖人やその家族、後継者の信仰を、とかく理想化して捉える傾向にある従来の親鸞研究と一線を画す立場で論じている。例えば『恵信尼文書』第5通の衆生利益のための三部経読誦の記述について、「親鸞は、呪術の効果そのものを否定したのではなく、あくまでそれによる極楽往生を否定したのである」(102ページ)と、他力信仰に徹することの難しさに苦悩していたことを指摘し、他力の信心を得ることを「難中の難」と説いたとする。
後の時代においても、教説と実際の信仰が必ずしも同じとはいえない現実があったと指摘している。しかし、「あとがき」において「それぞれの時代の中で親鸞の教えを受容し、工夫しながら門弟に説き続けた継承者がいたからこそ、現在の浄土真宗があることを忘れてはならない」(265ページ)とつづっている。そこには、自力への執着という苦悩のなかで揺れ動きながらも、阿弥陀仏の他力信仰を貫いた親鸞聖人や、その継承者に対する共感が感じられる。その共感が、本書執筆の原動力になっていると思われてならない。