- 出版社・取扱者 : 法蔵館
- 発行年月 : 2017年7月20日
- 本体価格 : 本体1,200円+税
目 次 |
まえがき あうだけの事にはあわせてもらわんとなア (中略) もったいない あとがき-「死語の回復」- [解説]真宗門徒の民俗語彙は何を語るのか(本林 靖久) 索引 |
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縁あって、仏教音楽研究所(現・浄土真宗本願寺派総合研究所)に勤めはじめたとき、一般家庭に生まれ育った評者は、真宗独特の言い回しにしばしば戸惑った。真宗固有の語彙だけでなく、例えば、「生かされている」をはじめとする受動表現のように、一般的な表現でもあるが真宗の脈絡におくと異なるニュアンスをもつ言葉は、存外多い。その頃に出会っていれば……と思うのが、本書である。
本書は、日本各地で真宗門徒が語り伝えてきた「門徒ことば」を、著者がそれを聞いたときの逸話や関連する出来事とともにつづった一冊である。本書に収められた47の言葉からは、日々の営みを阿弥陀仏という絶対的存在とともに送ってきた人々の生き方や暮らしぶりがみえてくる。その点で、本書は民俗宗教学的な記録としても貴重といえるだろう。
著者によれば、本書には数十年前までは確かに話されていたが、今ではほとんど聞くことのない言い回しも含まれているという。「解説」で宗教民俗学者・本林靖久氏は、「門徒ことば」が「その地域に生まれ、その地域で育てられ、そして、死を迎えていった真宗門徒の人生のなかで、真宗的人格を作り上げていった」と指摘しているが(140ページ)、昨今の宗教をめぐる社会状況の変化のなかで、これらの言葉も変容を余儀なくされることだろう。言葉の消滅は、それが話される共同体そのものの衰退や消滅につながる。本書が投げかける問いは、重い。
評者:山口 篤子(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)
掲載日:2019年1月12日