- 出版社・取扱者 : 朝日新聞出版
- 発行年月 : 2017年2月25日
- 本体価格 : 本体1,300円+税
目 次 |
はじめに 序章 第一章 人類の過剰な領域―宗教と芸能 第二章 日本仏教文化、発動! 第三章 日本仏教と芸能 第四章 説教の展開と落語の誕生 第五章 互いに響き合う説教と落語 あとがき 付録 落語「お座参り」の創作 参考論文・参考書籍 |
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「落語の源流には、僧侶の説教があるということを聞いたが、それについて詳しいことを知りたい」という方とって、本書は最適な入門書である。
そのタイトルが示すように「落語と仏教」が本書の中心のテーマであるが、落語だけではなく、能、狂言、歌舞伎、絵解き、説教節、講談、浪曲などの伝統芸能が、仏教の声明・表白・説法などから生まれてきたことが、大きな視点で把握することができる内容となっている。
本書において著者が描き出そうとするのは、単に仏教から芸能が生まれたという一方向の関係性ではなく、双方は、時には刺激を与え合い、時には批判し合い、時には協力し合って、洗練・熟成する、ダイナミックな共振関係にあるということである。
本書に、「宗教には〈この道を行く〉といった”凝縮していく方向性”がある。だからこそ迷いを超えていくことができる。しかし、時にはそれが誤った偏執となる。それを脱臼させる、あるいは”拡散する機能”を芸能や芸術はもっている」(168ページ)と述べられていることは、昨今の宗教を取り巻く世界的な情勢と重ね合わせたとき、深く考えさせられる。
さて、本書の後半に入ると、いよいよ、仏教から落語が生まれてきた流れが語られる。落語の祖とされる日快(安楽庵策伝)や、職業噺家第一号といわれる露の五郎兵衛(初代)、その他、米沢彦八や鹿野武左右衛門など落語の黎明期に活躍した人物の生涯や、彼らがどのような咄(はなし)を語ったのかということを、様々な文献を引用しながら紹介している。引用された文献には全て現代語訳が添えられ、難解な仏教用語が出てくるときは、易しい言葉で説明がなされており、落語や仏教について知識を待たない人でも分かるように配慮がなされている。また、民俗学者である関山和夫氏(佛教大学名誉教授)の先行研究を踏まえながら、落語のネタのなかでも、仏教の各宗派や、神道などの諸宗教に特徴的ものを、宗派・宗教別に分類したリストが示されている。さらには、著者は消失していた「お座参り」というネタを、落語家の笑福亭松喬師匠とともに、わずかに残る伝承をもとに創作しており、そのシナリオが本書に収録されている。落語好きにとっても読み応えのある内容である。
なお、本書は、2017年に河合隼雄学芸賞を受賞している。