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<ものまね>の歴史 仏教・笑い・芸能
本の紹介
  • 石井 公成 (いしい こうせい)
  • 出版社・取扱者 : 吉川弘文館
  • 発行年月 : 2017年6月1日
  • 本体価格 : 本体1,800円+税

ものまねと仏教と諸芸能-プロローグ
アジア諸国のものまね
古代日本のものまね
ものまねのどくりつ寺院芸能
ものまねから能・狂言へ
花開く江戸の歌舞伎と声色
拡張していくものまね
ものまねの近代化
変化と伝統-エピローグ
あとがき
主要参考文献

本書は、芸能の中でも「ものまね」に注目し、その歴史を明かしたものである。著者は、小学生時代に寄席で落語家・柳家小ゑん(後の立川談志)と三味線漫談家・柳家三亀松に魅せられたという。さらに、仏教学を専攻する学者であり、芸能にも造詣が深い。

ものまねは、古くから行われてきた芸の一つである。そもそも、何かの役を演ずることは、役の元になったものをまねることであり、著者は「ものまね芸がさまざまな芸能の基礎となった」と言う。本書は、ものまねなどの芸は仏教と古くから関わってきたと指摘する。

インドにおいて古くから布教の場において、ものまねや演劇が用いられてきた。それは釈尊(ブッダ)の時代からあったと伝えられている。しかもその中には、ジャータカ(釈尊の前世の物語)を題材にしたものがあり、見る者の笑いを誘うものであったという。それとは別に、専門の楽人が釈尊の生涯を題材にした劇を演じたり、僧侶の愚行を笑いの種にした芸があったという。本来、戒律では僧侶の歌舞音曲は禁止されている。しかし、後の時代になると、布教に際して僧侶が劇を演ずることは禁止されなくなった。7世紀に漢訳された戒律の文献に、釈尊の時代の話として、僧侶が劇を演じたと記されている。これによると、この僧侶は俗人の劇を妨害したことで批判されているが、劇を演じたことは問題とされていない。

仏教が日本に伝わると、日本でも仏教と芸能は結びついた。芸能が布教に活用されたり、芸能に仏教の内容が取り入れられるなど相互に、影響をあたえてきた。本書によれば、歌舞伎の見得は仁王のまねであり、九代目坂東三津五郎などは若い頃、父親に仏像の腰つきを学ぶよう言われたという。

近年、釈徹宗氏などにより、落語と仏教の関係が知られるようになってきた。本書は、落語に限らずさまざまな芸能が仏教と関係が深いことを示している。芸を深く知ることは仏教を知ることにつながると感じさせる一冊である。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2017年9月13日