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人口減少時代の宗教文化論
本の紹介
  • 櫻井 義秀 (さくらい よしひで)
  • 出版社・取扱者 : 北海道大学出版会
  • 発行年月 : 2017年5月25日
  • 本体価格 : 本体2,600円+税

はじめに
第一章 人口減少時代を生きる宗教
第二章 歴史認識と国家・ナショナリズム
第三章 世俗化社会のスピリチュアリティ
第四章 日本のカルト問題
第五章 日本人の幸せと宗教
おわりに
初出一覧

カルト、スピリチュアリティなどを始めとする「社会と宗教」に関する諸問題を研究テーマとしてきた著者が、月刊誌『月刊住職』(興山舎)の連載「現代宗教の最前線」をもとにしてまとめたのが本書である。

本書は、人口減少、国家・ナショナリズム、世俗化社会、カルト、幸せといったテーマについて、様々な調査や実例に基づきながら、現代に生きる人々に「宗教は何を提供できるのか」(「はじめに」)を問うている。現代社会の諸問題を客観的に把握した上で宗教の役割を考える構成となっており、予備知識がなくても興味深く読める。

では、本書によって著者は「宗教が何を提供できる」と考えているのか。それは、恐らく本書の副題「宗教は人を幸せにするか」にある「幸せ」であろう。「現代人の幸せとどこかで関係を取り結ぼうとする宗教の将来を展望しよう」とする著者は、臨床宗教師に代表されるような「人々と宗教との肯定的な接点」だけでなく、ナショナリズム、カルトという「人々と宗教との否定的な接点」をも提示することで、「幸せと宗教」との関係を多角的に論じようとしているのである。宗教は人々が求める「幸せ」すべてを、宗教が提供できるわけではない。それでも、宗教は現代人を「幸せ」にし得る。宗教は、社会とは無関係でいることはできない。「現代宗教の役割」を考え直すことは、「宗教とは何か」という根本を問うことになると感じさせる。


評者:岡崎秀麿(浄土真宗本願寺派総合研究所上級研究員)


掲載日:2017年8月10日