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日本の思想をよむ
本の紹介
  • 末木 文美士 (すえき ふみひこ)
  • 出版社・取扱者 : KADOKAWA
  • 発行年月 : 2016年5月25日
  • 本体価格 : 本体1,600円+税

はじめに
1 自然と人間
2 死者からの問いかけ
3 超俗から世俗へ
4 身体への眼差し
5 仏教の真髄
6 「日本」とはなにか
7 社会と国家の構想
年表
ブックガイド
あとがき

本書のカバーの折り返しの部分(前袖)に、これまで仏教学・日本思想史の研究者として生きてきた著者の願いが込められた文章が書かれている。少し長くなるが、引用してみたい。

「自然を考え、人間を考え、社会や国家を考えるのに、先人たちはこんなにすばらしいさまざまなヒントを与えてくれる。日本の思想がこれほど多様で新鮮なアイディアに満ちていることに、読者は驚くであろう。あらゆる側面で行き詰まり、閉塞状況に陥った今日、過去を顧みることは決して逃避ではなく、むしろそこにこそ未来へと向かう豊かな源泉がある。それを生かさずに、どうしてこれからの日本を築くことができるのであろうか。そんな思いを共有できる人が、少しでも出ることを心から願っている。」

近年の日本の世界からの評価や、政治家たちの発言により日本の「伝統」というものに注目が浴びるようになってきた。しかし「伝統」への関心が高まることに反して、「伝統」に関する議論がしっかりなされていない。著者はこの点に関して「心もとない」とし、特に思想に関してはまったく議論が見られないと、注意をしている。

本書は日本の伝統思想を学ぶ手がかりとして、「古典をしっかりと自分の目と頭と心で読み込むこと」(3ページ)を提唱し、その手引書となるべく書かれたものである。さまざまな古典の概要と魅力を4ページにまとめている。取り上げられた書物は仏典が多いが、これは仏教を軸に日本の思想を見るという、著者の方針によるものである。この方針は、日本思想形成に仏教が多大な影響を与えてきたことによる。今後も、日本の仏教界がさまざまなアイディアを社会に提供できる可能性を示唆する。

「温故知新」という四字熟語があるが、戦争、震災、社会・国家、そして私という人間を考えることについて、実は先人たちが既に多くのヒントを与えてくれていたことに気付かされる。


評者:橋本 順正(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2016年10月12日