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「ブッダ最後の旅」に学ぶ
本の紹介
  • 丸井 浩 (まるい ひろし)
  • 出版社・取扱者 : NHK出版
  • 発行年月 : 2016年4月1日
  • 本体価格 : 本体905円+税

はじめに
第一章 ブッダ入滅の物語
第二章 ブッダの遺言
第三章 弟子たちが経典に託した願い
第四章 愛弟子アーナンダと奇跡物語
第五章 自己にたよれ、法にたよれ
第六章 ブッダの涅槃-「人間ブッダ探究」の意味
参考・引用文献と謝辞

仏教の開祖・釈尊(ブッダ)は80歳で亡くなった。これが、身体の束縛から自由になった状態、「涅槃」である。涅槃に入ったことを「入滅」と言い、「仏の入滅」の意味で「仏滅」とも呼ぶ(六曜の「仏滅」は、仏教と無関係)。本書で取り上げる『ブッダ最後の旅』とは、釈尊の入滅前後の様子を描いた経典であり、原題は『マハー・パリニッバーナ・スッタンタ』(偉大な完全な涅槃の経、の意味)である。

『ブッダ最後の旅』は経典であり、経典とは釈尊の教えを示すものである。本書では、この経典において示される教えは、他の経典と比べて特徴的なものはないと指摘される。すなわち、釈尊は自身の考えを秘することなく弟子に伝えてきたのであり、「最後に明かす秘伝」などなかったことを意味する。そのため、釈尊は最期に臨んで「私はもはや言い残すことなどない。私に頼るべきことなど、もうないはずだ。私の指図を当てにするのではなく、あなた自身がもっとしっかりせよ」という意味を込めて、「自灯明、法灯明(自らをよりどころとし、法をよりどころとせよ)」を説いたのである。

また、釈尊は入滅にあたって、教団を存続させるための注意事項を述べているが、後継者を指名しなかった。これについて著者は「自分自身が教団を統括するリーダーだという意識はない」ためだと指摘する。これもまた、「自灯明、法灯明」の背景となっているのである。

著者は本書を結ぶにあたって、「ブッダの説き示した道は、一言でいえば『人間として立派に生きよ』ということ」と記す。「立派に生きる」は、言うのは簡単だが実行することは至難の業である。それを承知した上で「立派に生きる」とは何かを追究することが、仏教に生きるということなのだろう。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2016年7月11日