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物語のなかの宗教
本の紹介
  • 島薗 進 (しまぞの すすむ)
  • 出版社・取扱者 : NHK出版
  • 発行年月 : 2015年1月1日
  • 本体価格 : 本体762円+税

はじめに
第一回  心を打つ宗教性-物語が伝えようとしていること
第二回  悲しみの彼方-アンデルセン『人魚姫』
第三回  心の重みを知る-ジョージ・マクドナルド『軽いお姫さま』
第四回  いのちの交流-宮沢賢治『なめとこ山の熊』
第五回  弱さを認める-『新約聖書』「放蕩息子の帰還」と『法華経』「長者窮子のたとえ」
第六回  自由と責任を学ぶ-キングスレイ『水の子-陸の子のためのおとぎばなし』
第七回  心の空白に向きあう-トルストイ『イワン・イリッチの死』
第八回  罪と悔い改め-『観無量寿経』『大般涅槃経』阿闍世王の物語
第九回  疑いに抗う-倉田百三『出家とその弟子』
第十回  悪の自覚とともに生きる-武田泰淳『ひかりごけ』
第十一回 去りゆく者の慈しみ-深沢七郎『楢山節考』
第十二回 苦の果ての魂の輝き-石牟礼道子『苦海浄土-わが水俣病』
第十三回 それぞれの祈りを包むもの-遠藤周作『深い河(ディープ・リバー)』
参考文献

私の子供時代、「まんが日本昔ばなし」というテレビ番組が放送されていた。同番組ではお寺の和尚さんや小僧さんの出てくる話が多く、私の同級生の持っていたお寺のイメージは、同番組にかなり影響されていた。直接にせよ間接にせよ、物語に描かれた宗教の姿は、私たちの宗教観をかなり左右する。

本書は、さまざまな童話や小説を取り上げ、そこに潜む宗教を明らかにしていく。その一つに、『人魚姫』がある。その結末で、人魚姫は海の泡になる道を選んだ。これだけでも、「尊いもの」について考えさせられる。しかも、原作には続きがある。それは後々の希望を期待させるものであり、また生と死について一つの見解を示している。

著者は、「人の心を打つ物語には、宗教につながる素材が含まれていることが多い」(12ページ)「それぞれの物語は、特定の宗教の信仰をそのまま語り直そうとするものではありません。しかし、宗教の重要性が強く意識されています。そして、物語を通して『心を打つ宗教性』を見いだし、表現しようとしているのです。そうした物語をつむぎ出すことで、今やそのままでは受け継ぎづらくなっている宗教を支え直そうとしていると言ってよいでしょう」(16~17ページ)と言う。

宗教心を育むにあたって、物語はすぐれた題材である。教えを伝える者にとって、物語における宗教は軽視するべきではない。それを本書から感じられる。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2015年6月12日