- 出版社・取扱者 : 吉川弘文館
- 発行年月 : 2015年1月1日
- 本体価格 : 本体1,700円+税
目 次 |
現代に生きる親鸞 プロローグ 親鸞の一生 歎異抄の書誌 親鸞のこころ 唯円の周辺 唯円の思い あとがき |
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『歎異抄』とは、浄土真宗の宗祖・親鸞聖人が述べた言葉を門弟の唯円房がまとめた書物とされている。その中に「善人なほもつて往生をとぐ。いはんや悪人をや」という有名な一節である悪人正機説がある。
著者は、「極楽往生のためにと善行を積んでいる善人でさえ往生できるのですから、どうしてそれを積めずに悪い行ないを繰り返している悪人が往生できないことがありましょうか」(60ページ)と訳し、阿弥陀仏は、善い行ないをする能力がない悪人こそ、真っ先に救おうとされていることを強調している。また、「人は自分では自分のことを決められない、救えない」(69~70ページ)という考え方が当時の日本社会に浸透していたため、悪人正機説が受け入れられたとの見解を、史料に基づきながら提示している。
特筆的な見解としては、「親鸞が神祇不拝であったという見方は考え直すべきであろう」(94ページ)と述べている点である。著者は、親鸞聖人が神祇信仰を否定したのではなく、念仏を広めるための方策として「天神地祇」の言葉を用いたと捉えている。「神祇不拝」を改めるかどうかはさておき、親鸞聖人の生き方や伝道を考える上で有益な指摘である。
さらに、本書の特徴として唯円房の人物像や活動地域、中世の人々の生き方などに触れながら、『歎異抄』の後半部分の異義篇(親鸞聖人の教えとは異なる主張がさまざまにあることへの唯円房の歎き)を読み進める構成であることから、唯円房の思いが理解しやすくなっている。
著者が本書を執筆した目的で述べている通り、「歴史と現代との関係性を重視しつつ、現代人の生きる指針をみつめ」る一冊である。