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無知の壁 「自分」について脳と仏教から考える
本の紹介
  • 養老 孟司 (ようろう たけし)
  • アルボムッレ・スマナサーラ (すまなさーら・あるぼむっれ)
  • 釈 徹宗 (しゃく てっしゅう) 聞き手
  • 出版社・取扱者 : サンガ(サンガ新書)
  • 発行年月 : 2014年10月1日
  • 本体価格 : 本体700円+税

まえがきに代えて(釈 徹宗)
第一章 「自分」という壁
第二章 「死の壁」と「世間の壁」
第三章 「自分」の解剖学
第四章 「転換」は克服のコツ
第五章 信仰より智慧で自分を育てる
対談を終えて(アルボムッレ・スマナサーラ)

本書は、2011年に東京で開催された『B.E2555/2011年釈尊祝祭日 釈尊成道2600年記念ウェーサーカ祭』(主催:宗教法人日本テーラワーダ仏教協会)にて行われた講演での対談をもとに、まとめられたものである。対談は、相愛大学教授の釈徹宗氏が聞き手(進行役)となり、解剖学者の養老孟司氏とスリランカ上座仏教(テーラワーダ仏教)長老のアルボムッレ・スマナサーラ氏とが話し合う形で進行する。

本書の内容はサブタイトルにあるように、「自分」について脳と仏教から考えるというものである。養老氏は科学の立場から、かつて「『強い枠組みができてしまうと、枠の外側の事柄を理解しなくなる』という脳のしくみを『バカの壁』と名づけ」(14ページ)た。一方、仏教は、自分で勝手に作りあげた「自分」という枠組みこそが、苦悩を生み出す原因であり、その根源的なものを「無知」と呼ぶ(15ページ)。それによって作られる「枠組み」を「壁」と呼ぶならば「無知の壁」という造語ができる。

対談では「バカの壁」「無知の壁」が意図する「枠組み」という「壁」について視点があてられ、対話が重ねられていく。興味深いことは、科学と仏教という両立場からの主張に相当な類似点が確認できる点である。その上で、この「壁」とどのように向き合うかによって、人生の苦楽の捉え方が変わるという点で一致をみる。仏教の知識に関わりなく読み進められる、一読の価値ある書物である。


評者:網代 豊和(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2015年5月11日