HOME > 読む! > 仏教書レビュー > 本の紹介

日本人のこころの言葉 一遍
本の紹介
  • 今井 雅晴 (いまい まさはる)
  • 出版社・取扱者 : 創元社
  • 発行年月 : 2014年10月20日
  • 本体価格 : 本体1,200円+税

はじめに
言葉編
 I 念仏と往生
 II 捨てる思想
 III 一遍とこころ
 IV 一遍の最期
生涯編
 略年譜
 一遍の生涯

本書は、「捨聖(すてひじり)」と呼ばれた時宗の開祖である一遍について書かれたものである。言葉編と生涯編に分けて構成され、一遍の念仏の思想について、当時の社会的背景などを交えながら綴られている。

「捨聖」とは、衣食住や家族を捨て、すべてを捨てて念仏のみに生きたということであるが、著者は一遍の「捨てる」という思想に注目し、苦悩を抱える現代人にとって、この思想が大きな示唆を与えうると期待する。

一遍の活躍した鎌倉時代は、物々交換から金銭の流通により売り買いが盛んになった時代であるが、そのような時代にむき出しになるのが人間の欲望である。その欲望を「捨てる」と身をもって実践した一遍の生き様には阿弥陀仏の信仰があった。すなわち唯一、捨ててはならないものは、南無阿弥陀仏の名号ということである。一遍がよろこび味わった南無阿弥陀仏の念仏のみ教えは、『一遍上人語録』・『一遍聖絵』・『遊行上人縁起絵』として目にすることができるが、この中から特に阿弥陀仏の慈悲をあらわした箇所を抜粋し、現代語訳を添えて一遍の思想を解説している。民衆の恐れ、安心とは何か。時代を超えて、混迷の時代に生きる私たちに一遍の言葉が心にしみる一冊である。


評者:大江 宏玄(浄土真宗本願寺派総合研究所研究協力者)


掲載日:2015年1月13日