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島地黙雷 「政教分離」をもたらした僧侶
本の紹介
  • 山口 輝臣 (やまぐち てるおみ)
  • 出版社・取扱者 : 山川出版社
  • 発行年月 : 2013年1月20日
  • 本体価格 : 本体800円+税

島地黙雷とは何者か?
1 長州に生まれて
2 海を渡って-ヨーロッパとインド
3 黙雷の時代
4 黙雷と明治仏教

島地黙雷(1838~1911)とは、明治初期、教団の近代化の奔走した、浄土真宗本願寺派の僧侶である。その主な功績としてあげられるのは、政教分離を明治政府に認めさせたことである。政教分離は、現在では信教の自由を保障するものとして捉えられるが、黙雷はキリスト教への対抗を目的としていたと、本書は指摘する(53~55ページ)。

黙雷は、仏教とキリスト教が平和的に共存できるとは思っていなかった。江戸時代と異なり、政府がキリスト教を禁止することはできない以上、キリスト教に対抗する役割を担うのは仏教であると考え、そのための環境整備に努めたのである。

本書を読んでいくと、黙雷がそのような主張を持つに至った背景には、明治初期の宗教政策やそれに端を発した廃仏毀釈で困難に遭った経験があることがわかる。その経験から、僧侶や寺院の活動に中でも要となるのは布教であると捉え、政府が宗教に干渉するようでは布教の妨げになり、キリスト教への対抗もままならないと考えたのである。

黙雷の業績はこれ以外にも数多い(仏前結婚式の考案、教誨師養成、従軍布教など)。本書は、黙雷の諸活動を「キリスト教への対抗」という点から概観した一冊である。

結果として、キリスト教徒が日本で爆発的に増える事態にはならなかった。キリスト教への危機感が去れば、キリスト教への対抗を目的とした黙雷の主張は受け入れられなくなっていった。黙雷が教団や僧侶の変革を訴え、その主張が(すべてではないにせよ)受け入れられたということは、キリスト教を「敵」と見なし、その流入に対する危機感が共有されていたことを意味する。

現在でも「仏教の危機」「変革の必要性」が語られることは少なくない。しかし、対抗するべき具体的な「敵」が設定されているわけではない。「敵」のない時代、何が変革の原動力となるか。それを考えさせられる。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2013年7月10日