- 出版社・取扱者 : 新潮社(新潮新書)
- 発行年月 : 2013年4月20日
- 本体価格 : 本体680円+税
目 次 |
はじめに 第一章 信と不信のあいだを生きる 第二章 ブレつづけてこそ人間と覚悟する 第三章 悩みの天才・親鸞という生き方 第四章 幻想的な認識にすがらず、明らかに究める 第五章 慈悲の心で苦を癒やせるか 第六章 人心と社会を動かす宗教、音楽 第七章 転換期には「楕円の思想」で中庸を行く 第八章 日本的心性を抱いて生きる 第九章 それぞれの運と養生の道 第十章 死をめぐる思想的大転換点に立って 第十一章 無力の思想で荒野をゆく |
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ベストセラー作家の最新刊だ。まるで講演を聞いているような軽いタッチの文章が続き読みやすい。書名からはわからないが、内容はまさに「親鸞入門書」といえる。
冒頭で著者は言う。「自力でもなく、他力でもなく、その先に『無力』(むりき)という世界があるのではないか。…力の束縛をはなれ、自分を真に自在にできるとき、力ではない何かが、ほんとうの意味で人間を自由にしてくれる、そう思えてならないのです」
本書は健康・医療問題に始まり、流行歌、宮沢賢治と多方面の話題を通して、無常、慈悲などの仏教思想、自然法爾、非僧非俗など親鸞聖人の生き方・考え方が平易に語られていく。
説得力があるのは、若い時代の体験談が多数散りばめられていることによる。「自分は悪人なのだ」という自覚は「敗戦で朝鮮から引き揚げてくるときの悲惨な体験や、引き上げることができなかった多くの人たちの犠牲。その上に、自分は幸運にも生きて日本へ帰れたといううしろめたさ」によるものだ、と告白する。
そして齢80を超えた著者は言う。「人には世を去る適齢期、逝き時、逝きごろというものがある」
色紙が嫌いな丹羽文雄が、ことわりきれず「死」と書いたなどという興味深いエピソードも随所に紹介されている
評者:野生司 祐宏(浄土真宗本願寺派総合研究所元委託研究員、本願寺出版社元東京支社長)
掲載日:2013年7月10日