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目覚める宗教 アメリカに出合った仏教-現代化する仏教の今
本の紹介
  • ケネス・タナカ (けねす・たなか)
  • 出版社・取扱者 : サンガ(サンガ新書)
  • 発行年月 : 2012年12月1日
  • 本体価格 : 本体875円+税

第一章 アメリカで劇的に伸びる仏教人口
第二章 アメリカで仏教に出会う
第三章 仏教がアメリカに出会う
第四章 目覚める宗教としての仏教
第五章 現代社会の心の問題に応える仏教の心理学的アプローチ
第六章 アメリカで進む科学と仏教の対話
第七章 二十一世紀-グローバル化する世界での仏教の役割
あとがき

仏教と聞いて、アメリカを思い浮かべる人が何人いるであろう。おそらく、皆無に等しいのではないかと思う。しかし、アメリカ人が東洋的なものに興味を持っているであろうことは、多くの人が感じている。アップルの創業者、スティーブ・ジョブスが若かりし頃、禅を組んでいたことは、かなり知られるところとなっている。

本書の著者、ケネス・タナカ氏は、長年、アメリカでの仏教伝道に従事してきた。仏教がアメリカに紹介されたのは19世紀半ばであり、その歴史はまだ200年にも満たない。しかし、仏教はアメリカで確実に伸びている。それは何故か。著者の指摘によれば、「キリストの復活を『信じる』ことより、煩悩による誤った見方を是正して自らが『目覚める』ことを究極の目的にする仏教のほうが魅力的」(56ページ)に感じる人が多いからだと言う。また、仏教は瞑想などを通じて、誰もが教えを体験することができることも要因の1つだと言う。瞑想を用いることにより、心の問題の解決を図る人も多い。アメリカでは、瞑想を心理的な治療に応用することも行われているのである。

こうしたアメリカでの仏教は、現代日本における仏教とは様子が異なろう。日本では死者儀礼に専念する寺院も多く、仏教の社会的役割は狭まってきている。悩みある人に応答していくという、仏教本来のあり方を失わないためにも、アメリカ仏教から学ぶことは多々あると思える。本書はアメリカ仏教の今を知るため、恰好の概説書と言える。


評者:伊東 昌彦(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2013年5月10日