HOME > 読む! > 仏教書レビュー > 本の紹介

大江戸寺社繁昌記
本の紹介
  • 鈴木 一夫 (すずき かずお)
  • 出版社・取扱者 : 中央公論新社(中公文庫)
  • 発行年月 : 2012年10月25日
  • 本体価格 : 本体705円+税

大江戸寺社の賑わい−前置きはなるべく短く
神田っ子の神様に朝敵のレッテル−神田神社と将門の首塚
お賽銭で稼ぐ大名屋敷−安産信仰で大繁昌の水天宮
金運の御利益で江戸っ子がフィーバー−虎ノ門金刀比羅宮と江戸の金比羅信仰
戊辰戦争をくぐり抜けた清水の観音様−寛永寺の清水観音堂と関東の清水寺
音楽と金運に蓮飯の味覚−江戸の行楽地不忍池の福神
人が集まる観音の寺、観音の町−浅草寺と浅草の町
一年を三日で暮らすお酉様−鷲神社と長国寺をめぐるお酉様信仰
神仏も相撲も興行する盛り場の寺−参詣か行楽か、二股かける回向院
成田不動尊が江戸に出張−深川不動堂と成田不動講の活動
新開地に咲いた王朝趣味の花−太宰府から江戸にやってきた天神様
御利益をくださる恐ろしい閻魔大王−こんにゃく閻魔・ハイテク閻魔と江戸百閻魔
江戸の町で流行神になったお岩様−田宮稲荷とお岩様名所
おばあちゃんの原宿のお地蔵さん−とげぬき地蔵と江戸六地蔵
にわかに盛んになった堀之内のお祖師様参り−熱烈な法華信仰で賑わう街道や門前
二十五の厄は西新井、四十二の厄は川崎−西新井大師、川崎大師と江戸のお大師様参り
あとがき

江戸時代、江戸の街には多くの寺社が並び、多くの参詣者で賑わったところが少なくない。そのような寺社に、どのようにして多くの人が参拝するようになったのか、それらの寺社の門前の賑わいはどのようなものだったか、それを紹介した一冊である。

江戸時代の寺院というと、いわゆる「檀家制度」にあぐらをかいていたような印象を持たれがちである。しかし実態は異なり、寺社は参拝者が増えるよう、さまざまな工夫を凝らしていた。「霊験あらたか」と認識されれば多くの人々が参拝に訪れるので、その「御利益」を宣伝することはよく行われた。さらに、歌舞伎役者にその寺社を舞台とした芝居を演じさせたり、人の集まりやすい場所に本尊を移動して拝観させる「出開帳」などのイベントを大々的に行った。

参拝者が増えれば、門前町が賑わう。また、門前の賑わいは参拝者を惹きつけるものでもあった。すなわち、寺社の繁栄と地域の活性化は密接な関係を持つものである。寺院と地域の関係をどう考えればよいか、そのヒントが本書にある。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2013年1月10日