- 出版社・取扱者 : 本願寺出版社
- 発行年月 : 2018年11月1日
- 本体価格 : 本体200円+税
目 次 |
序-「恩徳讃」とは 仏教讃歌「恩徳讃」の誕生 和讃のなかの「恩徳讃」 「身を粉にし」「ほねをくだきても」 報恩感謝の生活 無常の思いを超えて あとがき 後鳥羽上皇配流の地を訪ねて |
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「恩徳讃」とは、親鸞聖人が作られた和讃(仏やその教えなどを讃えた七五調の歌)の1首である。「恩徳讃」には「身を粉にしても報ずべし」「ほねをくだきても謝すべし」という言葉がある。本書で解説されていることであるが、この「べし」は、強制や命令の意味ではなく当然の意であり、「信心を頂いた者は、報恩感謝しなければならないという心が必ず起こるはずである」という意味であり、信心を頂いた者の生き方を示しているのである。
さて、この「恩徳讃」には曲が付けられており、仏教讃歌として歌われることが多い。本願寺派においては、「恩徳讃」に付された曲は2種類ある。現在は清水脩(1911~1986)作曲のもの(「新譜」と呼ばれる)が主流であるが、以前は澤康雄(1888~1932)が作曲したもの(「旧譜」と呼ばれる)がよく歌われていた。
澤康雄が「恩徳讃」を作曲した地は、ハワイである。なぜハワイだったのか。19~20世紀初頭の日本からハワイへの移民には、真宗門徒が少なくなかった。移住した真宗門徒は、ハワイでも礼拝の習慣を絶やさなかった。欧米の教会には音楽も伝道(ミッション)であるという認識があり、当時の仏教界でも近代的な仏教音楽が求められていた。それに応じて、当時本願寺ハワイ別院に赴任していた澤康雄が、さまざまな仏教讃歌を作曲した。その一つが「恩徳讃」である。ハワイ生まれの仏教讃歌「恩徳讃」が日本に伝わり、日本でも歌われるようになったのである。
本書で興味深いのは、ハワイで「正信偈」などを読み「恩徳讃」を歌う場合、英訳ではなく、日本語の発音をローマ字表記したものを用いていることである。その理由は、「日本語や漢文をローマ字でそのまま音読したほうが味があってよいとか、そのこころがよく伝わるといわれて」(15ページ)いるからである。教えを伝えるとは、言葉の意味を伝えるだけではなく、「こころ」を伝えることでもあると感じさせられる。