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日本史のなかの親鸞聖人 歴史と信仰のはざまで
本の紹介
  • 岡村 喜史 (おかむら よしじ)
  • 出版社・取扱者 : 本願寺出版社
  • 発行年月 : 2018年10月1日
  • 本体価格 : 本体1,200円+税

第一章 時代の波と転機
第二章 青年期の苦悩
第三章 出会いと別離
第四章 伝道の日々
第五章 晩年の生活とその後
親鸞聖人関連年表・史跡略図・主要参考文献
あとがき

浄土真宗の開祖・親鸞聖人ほど多様な人物像が語られる仏教者が過去にいただろうか。かつて「如来の化身」として仏や菩薩と同等に崇められた親鸞聖人は、明治維新を経て、私たちと同じように悩み、苦しみ、悲しむ一人の「人間」として再解釈されるようになった。求道者としての親鸞、哲学者としての親鸞、恋愛に没頭する親鸞、祖国を愛する親鸞、権力と対峙する親鸞… 様々に描かれるその姿は、「親鸞像の研究」が求められるほどに多彩である。だが、ときにエビデンスにもとづかない描写によって、恣意的に語られることも少なくない。そうした近代人に都合よく創作された親鸞像を、末木文美士氏は「あたかも中世という暗黒時代に、突如宇宙人が舞い降りるように出現した近代人であるかのよう」と評した(『親鸞-主上臣下、法に背く』 279ページ)。主観的な親鸞像も、やはり一定の客観性が確保されなければ説得力を失ってしまう。

真宗史が専門の岡村喜史氏による本書は、各々の親鸞像を語る上で必要なエビデンスを提供する最新の書籍である。「日本史のなかの」という書名の通り、日本史研究の成果を踏まえながら親鸞聖人を紹介する。全5章を通して、幼少期から晩年にいたるまでの一つひとつの足取りが、同時代的状況のなかで何を意味するのかを明らかにし、動乱の中世社会を生きた歴史上の一人物の姿に迫る。

とくに注目したいのは、親鸞聖人の生涯に関する諸学説への立場である。例えば親鸞聖人の結婚をめぐって、従来、恵信尼公のほかに「玉日」と呼ばれる別の妻が存在したとする説が存在するが、著者はこれを事実として認めない。著者は、九条兼実の娘とされる玉日は、信頼しうる史料に一切言及が見られないことなどから、とるに足らない作り話であるという。本書は、こうした学術上の議論もつねにわかり易く、かつ平易な文体で解説されており、親鸞聖人について初めて学ぶ人にも、すでに知る人にも一読を薦めたい一冊である。

生涯、自身の足跡を書き記すことのなかった親鸞聖人。著者は背景にある時代性を考慮しつつ、親鸞聖人の生涯を詳らかにする。本書を通して読者自身も「私の親鸞像」を描いてみてはどうだろうか。


評者:菊川 一道(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2019年3月11日