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六十三歳の親鸞 沈黙から活動の再開へ
本の紹介
  • 今井 雅晴 (いまい まさはる)
  • 出版社・取扱者 : 自照社出版
  • 発行年月 : 2018年04月01日
  • 本体価格 : 本体800円+税

刊行の趣旨
はじめに
1 親鸞の関東からの帰京
2 親族と家族の動向
3 親鸞帰京前後の京都の政治社会情勢
4 「鎌倉幕府の念仏禁止・念仏者弾圧」の虚構
5 さまざまな専修念仏
6 親鸞と聖覚の活動
7 聖覚の没と親鸞の活動再開
おわりに

本書は、関東での布教生活の後、京都で暮らされた親鸞聖人が、60歳から90歳までの30年間(親鸞聖人が京都へ帰られた時期について諸説あるが、著者は60歳と推定する)、どのように生きていかれたのかについて明らかにしていくシリーズ「帰京後の親鸞―明日にともしびを―」の第1作である。親鸞聖人は80歳代に入ってから盛んに執筆活動をされている。これについて著者は「同じ時代に生きている人のみならず、将来の、明日の人々に対しても生きるともしびを示しておきたいという、強い意欲」(「刊行の趣旨」)の現れであると述べている。これが、このシリーズ名の由来である。親鸞聖人のこの意欲は、現代の私たちに対しても生きるともしびともなるであろう。

本書では、親鸞聖人は関東では約20年間過ごされたので多くの門弟や知人に囲まれ、尊敬される立場にあったが、生まれ故郷である京都に帰った時は、尊敬の眼で見てくれる人はまずいなかったであろうと述べている。この時期の聖人の動向を知る手かがりとして、著者はさまざまな史料をもとに、家族・親族や法然聖人門下の動向、さらに当時の政治状況をもとに検討している。これまでの研究方法では明らかにし得なかった親鸞聖人の生き方を明らかにすることで、私たちにとって「明日にともしび」となるような親鸞聖人像が描き出されているのである。

親鸞聖人の活動が変化するきっかけとなったのは、63歳の時、法然聖人門下での先輩にあたる聖覚(せいかく)が亡くなったことであると著者は見ている。聖覚は親鸞聖人とともに、信心を念仏の基本にすえており、親しく交流してきた。その聖覚が亡くなり、これが契機となって親鸞聖人は「自分が先頭に立って正しい念仏、信心に基づく念仏を伝えなければと思い至った」(70ページ)のであって、これが晩年の多くの著述につながったと言う。

親鸞聖人が年齢を重ね、自身も周囲の状況も刻々と変化していく中で、どのように生き抜いていかれたのか。私たちと重なる部分はどのようなところにあるのか。シリーズの第2巻目以降も楽しみである。なお、本シリーズ第2巻については、「親鸞六十七歳のころの状況を見ていきたいと計画している」(「おわりに」)とのことである。


評者:堀 祐彰(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2018年8月10日