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「定年後」はお寺が居場所
本の紹介
  • 星野 哲 (ほしの さとし)
  • 出版社・取扱者 : 集英社(集英社新書)
  • 発行年月 : 2018年07月18日
  • 本体価格 : 本体780円+税

はじめに
序章  寺は生きている人のためにある
第1章 出会いの場としての寺
第2章 子育ても、寺で
第3章 人の悩みに寄り添う寺
第4章 人生の終末を支える寺
終章  居場所としての寺に出会うには
おわりに

本書は、社会学的な立場から終活の問題などを取材・研究してきた著者が、さまざまなお寺の活動を紹介したものである。

タイトルには「定年後」とある。しかし紹介される事例は、定年後に限られたものではない。それでは、なぜ「定年後」というタイトルなのだろうか。

本書の中では、「ソーシャル・キャピタル」と「サードプレイス」について説明されている。ソーシャル・キャピタルとは「社会関係資本」と訳されるもので、「人々の豊かなつながりは信頼を生み『お互い様』の関係をつくり、社会にとっても良いこと」(35ページ)とある。またサードプレイスとは、「家でも職場でもない『第三の居場所』を指す」(同前)とある。

一般に、定年を迎えると、生活は大きく変化する。タイトルは、そのような人生の大きな節目を迎えてその変化の中で、悩みを抱える人が多いことからつけられたのだろう。もちろん、悩みを抱えるのは、定年という節目だけではない。そこで、結婚や子育て、さらには人生の終末期などのライフステージにそって、20を超える寺院の活動が紹介されている。既に各種メディアで取りあげられている活動もあるが、このような活動の紹介が端緒となり、結ばれるご縁もあるだろう。著者の「あらゆる世代にとって、お寺は居場所となりうる」(18ページ)という言葉が力強く感じる。

また、著者は、僧侶について、「世の中を覆う『経済ファースト』の価値観とは別次元の価値を提示できる可能性がある人」(184ページ)といっている。評者もまた、社会生活をいとなむ上で、僧侶でありながら「経済ファースト」の価値観に染まっていると感じる。しかし、著者の言葉に後押しを受けて、仏教的な価値観を提示できる可能性を、少しでも現実のものにできるよう、日々努めていきたいと思う。


評者:溪 英俊(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2018年9月10日