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テレビと宗教
書評
  • 石井 研士 (いしい けんじ)
  • 出版社・取扱者 : 中央公論新社(中公新書ラクレ)
  • 発行年月 : 2008年10月10日
  • 本体価格 : 本体840円+税

はじめに
序章  宗教がバラエティ番組化する
第一章 今、放送されている心霊・超能力番組に危険性はないのか?
第二章 真実か、やらせか、はたまたバラエティか
第三章 どうして規制はかからないのか
第四章 テレビと宗教関連番組の六〇年史-四つのタイプ
第五章 日本では嫌われる教団番組
第六章 集中報道される宗教団体事件
第七章 ステレオタイプ化する宗教-そして、バラエティ番組だけになった
終章  情報化社会と宗教のゆくえ
あとがき

現代は家族形態も変化し、多くは核家族化して、祖父母から若者への文化の伝承が難しくなっている。宗教に関しても状況は同じである。祖父母が仏壇に向かって手を合わせる姿を見ることもなければ、法事に出て僧侶の法話を直接聞く機会も少ない。宗教に関する情報の大半はテレビを通してのものである。そのテレビからもたらされる情報も、信頼に足る内容とは言い難い。しかも宗教情報の多くは、しっかりした宗教番組からのものではなく、情報番組もしくはバラエティ番組から得たものである。検証する術を持たない多くの人にとっては、そこで得た情報をもとに自らの宗教観を構築することになる。なんとも覚束ない話である。

最近、石井研士氏の『テレビと宗教』を読んだ。我が意を得たりという思いであった。氏は「はじめに」で「宗教は人類が誕生して以来続いてきた精神文化の中核をなす、“濃い”文化である。宗教文化への関心や敬意が消えていき、薄っぺらな宗教情報しか残らないとしたら、文化、そして社会は衰退していく一方なのではないか」と述べている。現状を的確に捉えていると言えよう。社会の衰退は道徳的な問題で済まされるようなものではない。もっと人間の本質的な問題である。人間の本質的な問題を扱うのは宗教である。その宗教観を現代人は、バラエティ番組などのテレビ番組から得た情報によって形成していると指摘し、番組の内容を検討しているのである。

本書は著者自身が述べているように、決して「テレビ局や放送番組に対して、個人的な不満を並べ立てたものではな」く、「テレビという社会制度が精神文化としての宗教に現在、どのような影響を与えているのかを考察する」建設的な内容である。著者も指摘するように、テレビではバラエティ番組の中で、超能力に関する内容や心霊番組で溢れている。超能力者と称する者による犯罪捜査や、先祖の霊とされる者との交信がまことしやかに放映されている。「どうせバラエティ番組なのだから、放っておいてもいいんじゃないの」といった意見もあろう。しかし、それは対象がしっかりした宗教観をもった大人であることを前提としている。多くの視聴者の中には、宗教的知識をもたない子どもや若者も含まれている。そのような対象が、繰り返しそうした番組を観ることによって、どのような宗教観を形成することになるか危惧されているが同感である。

また宗教に関するニュース報道のあり方や、ステレオタイプ化した紹介の仕方にも問題があると指摘している。ステレオタイプ化した宗教の紹介の仕方については、「宗教の現状をゆがめて伝えているだけでなく、新しい宗教観や宗教意識、あるいは宗教を排除するメンタリティを形成している」と指摘する。

しかし、こうした宗教関連番組のあり方に関して、作る側もまた視聴者も、さらに宗教者や宗教団体、その連合体、研究者すら関心を示さないことを憂慮している。そして「戦後の教育において、精神文化としての宗教に正面から取り組むことなく今日に至ったつけが、現状のような霊や超能力や占いや非科学的番組の跳梁跋扈を招いたともいえる」と述べている。宗教教育、伝道のあり方を考える上で是非読んでおきたい一冊である。


評者:普賢 保之(京都女子大学教授)


掲載日:2009年2月10日