HOME > 読む! > 仏教書レビュー > 本の紹介

お念仏とともに 父・東昇を想う
本の紹介
  • 藤井 雅子 (ふじい まさこ)
  • 出版社・取扱者 : 探究社
  • 発行年月 : 2014年10月26日
  • 本体価格 : 本体1,800円+税

東昇先生との出遇いを恵まれて(佐々木 惠精)
一 みちびかれて
二 研究生活
三 生の総決算は「ただ念仏」
四 自然科学と宗教
五 父 あれこれ
六 ゼミナール
七 往生浄土
八 母
九 還相回向
十 最後の講演「守愚・守退」
東昇年譜
あとがき

本書に紹介される東昇(1912~1982)は、国産第一号の電子顕微鏡の製造者として知られるほか、日本ウイルス学会会長、京都大学ウイルス研究所所長なども務めた一流の科学者であると同時に、浄土真宗の信仰を拠り所に仏教書を著わしたり、仏教に関する講演なども行った念仏者でもあった。本書の著者は東の長女であり、本書は娘から見た父・東昇の生涯を伝記風に辿るものであるが、特に念仏者としての側面に焦点が当てられている。

本書の眼目は、科学と宗教との関係を考えさせるところであろう。両者の関係について、たとえば、「宗教と科学は比較すべきものではありませんが、もし比較するとすれば、宗教の世界は高次元、科学の世界ははるかに次元の低い世界であります」(173ページ)など、科学者にして念仏者でもあった東の宗教観が随所に紹介されている。東のこのような宗教観は、篤信な念仏者であった母親の影響をはじめ、京都大学の学生時代にも仏教青年会に所属するなど若い頃からの生活環境のなかで自然に育まれていったことが窺える。

最後に、現代にも警鐘となるであろう、東の次の発言を紹介しておきたい。「科学研究で気になりますことは、明晰な哲学の欠如です。哲学なき科学技術の独走です。科学者は広い視点をもって、人間の問題まで含めて、ものを考えることが大切ではないか」(76ページ)。なお、評者未読であるが、本書にしばしば紹介される東自身の仏教書も、是非とも手に取りたい気持ちにさせられた。


評者:石上 和敬(浄土真宗本願寺派総合研究所研究協力者、武蔵野大学教授)


掲載日:2015年5月11日