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仏教の事典
本の紹介
  • 末木 文美士 (すえき ふみひこ)
  • 下田 正弘 (しもだ まさひろ)
  • 堀内 伸二 (ほりうち しんじ)
  • 出版社・取扱者 : 朝倉書店
  • 発行年月 : 2014年4月20日
  • 本体価格 : 本体8,800円+税

第1章 仏教を知る〔歴史〕
第2章 仏教を考える〔思想〕
第3章 仏教を行う〔実践〕
第4章 仏教を旅する〔地理〕
第5章 仏教を味わう〔文化〕
索引

「言葉を調べる仏教辞典の類は、初歩のものから専門的なものまで各種あって、仏教書を読んでいて、わからないことを調べるのに役立つ。しかし、Encyclopediaと称しうる仏教の事典は、ほとんどない。望月信享編『仏教大辞典』10巻は定評あるが、専門家向けで難解であるとともに、古いものであって最近の成果を知ることはできない。」「多様な要望を満足させつつ、しかも仏教の全般が見渡せ、日本の文化の深層やアジアの文化の多様性まで理解できるような仏教百科事典が必要だということは、かなり以前から言われていた」(「序」)。本書はこの欠如を充分に埋めてなお余りある成果となった。項目と執筆者を一覧するだけで、本書が高い価値は瞭然としよう。一般的な縦書き・右綴じの和文辞典とは異なり、本書は横書き・左綴じの論集のような体裁をとる「読む仏教事典」である。とかく仏教の辞典はひとつの単語に多くの語義解釈を列挙しがちであるが、それは仏教が長い時間をかけて汎アジア的に伝播し、多様化し、いまなお生き続けている宗教だからに他ならない。本書ではそうした推移と特色を5部の体系に分けて整理している。

この類書として想起されるのが、近年復刊された『仏教・インド思想辞典』(春秋社)だが、彼書が「インドの仏教」に主軸を置いたのに比べ、本書は「アジアの仏教」を広く扱い、とくに日本の文化・習俗的側面も丁寧に掬い上げている。簡易な辞書の次に手に取るものとして、さらに専門書の森にわけ入るよすがとして、今後数十年のスタンダードとなるであろう良書である。


評者:日野 慧運(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2014年11月10日