- 出版社・取扱者 : 新潮社(新潮選書)
- 発行年月 : 2013年12月20日
- 本体価格 : 本体1,600円+税
目 次 |
序 第一章 モガリの政治空間-古代王朝 第二章 タタリとケガレの呪縛-平安時代 第三章 皇威の凋落と寺家専業-中世 第四章 尊皇思想と天皇陵の「創設」-戦国から江戸時代 第五章 忠孝の教化と国民統合-明治・大正 第六章 国民主権下の総服喪-戦後皇室と昭和の大喪 結び 象徴天皇にふさわしい葬儀とは 歴代天皇の在位と埋葬の様子 |
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日本仏教史で天皇と言えば、まずは奈良の大仏さまを造立した聖武天皇が浮かぶ。天智天皇や天武天皇、そして桓武天皇や嵯峨天皇も、仏教信奉者として知られている。また、仁和寺や大覚寺は天皇家との関係も深く、泉涌寺に至っては、江戸時代まで天皇家の菩提寺としての役割を果たしていた。では、天皇の葬儀というものは、現代にイメージされるような仏式であったのであろうか。葬儀のあり方が話題となる昨今、天皇の葬儀史を紐解こうとする本書の試みは、私どもに新たな視点を与えてくれるものである。
著者である井上亮氏は日本経済新聞社社会部編集員で、警視庁、大阪府警、宮内庁、法務省などを担当してきた。2013年11月に宮内庁が天皇皇后両陛下の「今後の御陵及び御喪儀のあり方について」【宮内庁ホームページへリンク】を発表したことを受け、天皇の葬儀を通史としてまとめたのが本書である。仏教が伝来する以前の様子はもちろん、昭和天皇の大喪の礼まで、幾多の資料を渉猟して、可能なかぎり事実の抽出に努めている。また、その一方で著者は、象徴天皇としての葬儀のあり方についても問題意識を持っており、本書は葬儀を通しての天皇論であるとも言える。
江戸時代までは形式的には律令制度が続いており、天皇は自らの葬儀や陵について、積極的に発言することも多かった。その実現の有無は別問題としても、ある程度は天皇の遺志が尊重されてきたと言う。葬儀や埋葬という営みを考えた場合、天皇といえども、これはごく自然なあり方であると言えよう。政治的な配慮と同時に、古代からの儀式を踏まえつつ、その人らしい葬儀や埋葬法が考えられてきたのである。
著者は最後に、「自身の葬儀について天皇の遺志が尊重された時代、様々な葬法が行われた時代があったことを忘れてはならないと思う」(363ページ)と締め括っている。これは私どもにとっても、葬儀のあり方を考える上で念頭に置くべきことであろう。