- 出版社・取扱者 : 岩波書店(岩波新書)
- 発行年月 : 2009年4月21日
- 本体価格 : 本体980円+税
目 次 |
序章 二人の琵琶法師 第一章 琵琶法師はどこから来たか-平安期の記録から 第二章 平家物語のはじまり-怨霊と動乱の時代 第三章 語り手とはだれか-琵琶法師という存在 第四章 権力のなかの芸能民-鎌倉から室町期へ 第五章 消えゆく琵琶法師-近世以降のすがた 「俊徳丸」DVDについて 「俊徳丸」全七段・梗概 あとがき |
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本書は、兵藤裕己・学習院大学教授(専門は日本中世文学・芸能論)の、琵琶法師をめぐる論考である。200ページ程のコンパクトな本であるが、著者は平安期から現代に至るまでの琵琶法師の歴史を、膨大な史料をもとに編み上げている。
在野の宗教者(「法師」は仏教伝道者の意)であり、異界との媒介者とも考えられた盲目の琵琶法師は、長く「賎民」と位置付けられたが、同時に「平家物語」という政権交代劇の語り部として権力構造に組み入れられもした存在である。琵琶法師をめぐる民俗学的、宗教学的な視座からの論述はやや学術論文調ではあるが、著者のフィールドワークを通して得た琵琶法師観と、語り口の巧みさのために、読み物としても魅力的である。琵琶演奏と語りの声という、文字に残らない伝承を周辺資料から掘り起こした労作であり、神仏習合に代表されるような、様々な価値観がリンクしあう、中・近世日本の宗教観が伺い知れて興味深い。巻末には、琵琶法師・山鹿良之(やましかよしゆき)氏の演唱を収めたDVDが付録として付いている。
評者:日野 慧運(教学伝道研究センター研究助手)
掲載日:2010年3月10日