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「かなしみ」の哲学 日本精神史の源をさぐる
本の紹介
  • 竹内 整一 (たけうち せいいち)
  • 出版社・取扱者 : 日本放送出版協会
  • 発行年月 : 2009年12月25日
  • 本体価格 : 本体970円+税

はじめに
第一章 「かなしみ」という問いの原点
第二章 「かなしみ」の力
第三章 「かなし」という言葉の歴史
第四章 他者に向かう「かなしみ」
第五章 神・仏と「かなしみ」
第六章 「われ」という「かなしみ」
第七章 別れの「かなしみ」
第八章 「かなしみ」の表現
第九章 有限性/無限性の感情としての「かなしみ」

引用・参考文献
あとがき

倫理学・日本思想史を専門とする著者は、これまで「別れ」「はかなさ」等を主題として、日本人の精神史を読み解いてきた。本書では、「かなしみ」を排除するのではなく、むしろ「かなしみ」の感情に親和していくことによって根源的なるものにつながっていく日本人の思想性・精神性を、多様な文献を駆使して説き明かしていく。まず、「人生は苦である」よりも「人生はかなしい」の方が、なぜ日本人の心を打つのか―という仏教にとっての重要な問いへの回答を示し、そして「かなしみ」の語源を検証する。その後、親鸞聖人と本居宣長を取り上げ、「かなしみ」が「おのずから(無限性)」と「みずから(有限性)」の「あわい」に呼び起こされる構造を示す。

「それ自体が「永遠の根源」からの働きであるとし、それを「かなしむ」ことにおいて、何らかの永遠・無限につながりうるものだ」(210ページ)と、「かなしみ」を有限性/無限性の感情として理解する立論の中には、日本仏教思想を理解するためのヒントが隠されている。


評者:藤丸 智雄(教学伝道研究センター常任研究員)


掲載日:2010年8月10日