- 出版社・取扱者 : 武蔵野大学出版会
- 発行年月 : 2017年1月25日
- 本体価格 : 本体3,000円+税
目 次 |
序論(ケネス・タナカ) I智慧 第一章 釈尊の「証」から親鸞の「真実証」へ――愚の自覚を生む智慧(小川 一乗) 第二章 仏道としての浄土真宗――「信心の智慧」の意味(藤 能成) 第三章 親鸞における智慧(前田 壽雄) 第四章 親鸞における「智慧」の構造の原点――世親・曇鸞の浄土教における「智慧」(田中 無量) 第五章 親鸞における信心の智慧の側面――体験的視点(ケネス・タナカ) II主体性 第六章 親鸞浄土仏教における阿弥陀如来と凡夫存在の入不二的関係論(武田 龍精) 第七章 親鸞浄土教におけるホーリズムとその意義――ハイデガー哲学に照らして(デニス・ヒロタ) 第八章 親鸞における人間様態の問題――三哉が明かすもの(川添 泰信) 第九章 親鸞が語る「自力」概念の基底とは――「信罪福心」(渡邊 了生) 第十章 親鸞から覚如へ――菩薩としての主体の放棄(斎藤 信行) III社会性 第十一章 『教行信証』における往相・還相の問題(末木 文美士) 第十二章 如来の智慧のなかに生きる意味――還相回向と仏身仏土(加来 雄之) 第十三章 親鸞とエンゲージド・ブディズム――「非僧非俗」の再解釈(大來 尚順) 抜粋的まとめ(ケネス・タナカ) |
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編者は、親鸞聖人の思想は「信じる宗教」として理解されてきたと語る(「序論」)。確かに、親鸞聖人は信心が浄土へ往生する正因であると説かれている。しかし、親鸞聖人の思想を検討すると、「信心」に留まらない多彩な面が明らかとなってくる。
仏教は元来、悟りを開いて真実に目覚める「智慧」を得ることを目標とする。そのために、自身の問題に自身で取り組む「主体性」が求められる。そして、大乗仏教では慈悲の精神にもとづき、他者のための行動が強調されており、社会との関わりすなわち「社会性」が課題となる。
浄土真宗も大乗仏教であり、親鸞聖人の思想にも「智慧」「主体性」「社会性」を見出すことができる。本書は、これら3点に着目して親鸞聖人の思想を再検討した、13名の論考をまとめたものである。
編者がとくに強調するのは、浄土真宗を「目覚める宗教」として捉え直そうとする姿勢である。本書の「序論」によれば、アメリカやカナダの浄土真宗寺院では「信じる」よりも「目覚める」教えとしての説き方がなされているという。
教えを後世に受け継いでいくためには、従来重視されてなかった点に注目したり、これまでと違った読み方を探ることが有益な場合がある。本書のように「目覚める」ことに注目することは、日本においても現代人の興味をひくものとなるであろう。
評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)
掲載日:2017年6月21日