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人生からの贈りもの 医療と仏教から見つめるいのち
書評
  • 佐々木 恵雲 (ささき えうん)
  • 出版社・取扱者 : 本願寺出版社
  • 発行年月 : 2009年3月1日
  • 本体価格 : 本体1,000円+税

序文-からだとこころのふれあい-
第一章 生きることの始まり
第二章 生きることに出会う
第三章 大きないのちの流れのなかで
参考文献
講演・初出一覧
あとがき

著者の佐々木恵雲氏は、現在、西本願寺あそか診療所の所長を勤められている医学博士である。滋賀県の寺院に生をうけ、現在も滋賀で住職を勤められている。そのような経歴から、心と身体がどのように関係しあうのか、また医療はどうあるべきか、などの課題に関心をもち続けてこられた。そういう関心からすでに『いのちの処方箋』(本願寺出版社、2006年5月)、『いのちのゆくえ 医療のゆくえ』(法蔵館、2006年10月)を出版しておられるが、この度の出版はそれに続くもので、講演記録なども含め、著者の思いを披瀝されたものである。

医療が生命の延長と苦痛の除去という身体的ケアーの方向をめざすのに対し、心のケアーが並行して大切であるということが言われるようになった。さらにそれが生きるとは何か、生きる意味は何か、という人間の“いのち”全体の問題として注目されるようになった。著者はそうした問題に、自らが僧侶としてかかわる仏教からの示唆を加えようとする。

生命の軽視が散見される傾向のなかで、「なぜ我々はこの世に存在し、なぜ生きなければならないのか」「命は本当に尊いのか」という、素朴だけど根源的な問いが私たちを悩ませている。著者佐々木氏は言う。「この地球上に人間も含めてなぜ生き物が存在しているのかと聞いても、誰も今の科学では説明できません」(27ページ)と。しかし、氏は言う。「どうも地球上の生き物は、存在していること自体に意味がある、生きているということに意味があると言えそうです」(同前)と。与えられた「かけがえのない生命」、それをどう意味づけて生きていくかは、一人ひとりに問われているということであろう。

佐々木氏は、テニスのアンドレ・アガシの「自分にとって、今はプロセス(過程)を大切に考えているんだ。デスティネーション(目的地)ではないんだ」(17ページ)という言葉を引いて、その「意味づけ」とは、その人がどんなに偉くなったかとか、事業に成功したかといういう目に見える結果にあるのではなく、その「過程」であるというのである。「プロセスを活かし大切にすること、そのことが生きる意味を明らかにし、生きる喜びを見出すことにつながると思います。“人生”のなかでこの喜びに出会うことこそ、私たちにとって本当の贈りものと言うことができるでしょう」(23ページ)とは著者の結論である。

そして私は思う。苦悩は多いが、この与えられた生命をひたむきに「生きようとする意志と姿」、それこそが「命の尊さ」ではないであろうか、と。


評者:上山 大峻(教学伝道研究センター客員研究員、龍谷大学元学長)


掲載日:2009年6月10日