- 出版社・取扱者 : 秋山書店
- 発行年月 : 2008年8月20日
- 本体価格 : 本体2,200円+税
目 次 |
対談- マスメディアとスピリチュアルブーム-宮崎哲弥×島薗進[司会・渡邊直樹] 特集・メディアが生み出す神々(緒言・『現代宗教』編集委員会) メディアのなかのカリスマ(堀江 宗正) 西欧とイスラームとの衝突(内藤 正典) ステレオタイプ化する宗教的リアリティ(石井 研士) 宗教とメディア報道(小城 英子) ヴァーチャル参拝の行方(黒崎 浩行) マンガと宗教の現在(ジョリオン・バカラ・トーマス) アニメと宗教(朴 奎泰) 世界遺産・観光・宗教(松井 圭介) 現代メディアにおける「神話」(松村 一男) 2007年の宗教動向(2006年10月~2007年9月) 【国内】消費社会の「宗教」(辻村 志のぶ) 【国外】多様性の中の一致と不一致(広池 真一) 執筆者紹介 国際宗教研究所の活動 |
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本書は、宗教・仏教の情報を得る方法として、「2つの異なる」手段がある事を我々に気づかせてくれる。私は仏教が専門で、仏教や宗教に関する情報は、主に書物から得るのが普通だ。多分、この書評を読まれている多くの人も私と同じ方法で仏教や宗教の情報を得ているであろう。
しかし、本書によると宗教・仏教を専門としない一般の人々は、研究者とは異なるルートを通して、仏教や宗教の知識や情報を得、またこれらに対する様々な印象を感じ取っていると言う。そして、その主なルートとはマスメディアであり、特に若い世代に顕著だと言う。
国際宗教研究所所長である島薗進教授(東京大学宗教学科)は、宗教的な課題が実はテレビ、漫画やアニメ、映画やゲーム、及びインターネットで多いに取りあげられていると言っている。教授の言葉を引用してみよう。
テレビで「スピリチュアル・カウンセラー」や人気の占い師が大活躍している。マンガやアニメの中には宗教的な素材がたくさん出てくる。映画やゲームのなかにも宗教や神話のテーマは大いに活用されている。インターネットでも宗教やスピリチュアリティに関する情報はにぎやかである。
(38ページ)
さて、本書の冒頭には、島薗教授と、評論家で仏教に精通している宮崎哲弥氏の「マスメディアとスピリチュアルブーム」と題する対談がある。その話題は多岐に渡るが、その1つに、一時期はマスメディアをつかって大きな影響を与えていた江原啓之氏の自殺への考え方を上げている。自分をリセットし、生まれ変わるために自殺することには反対だと、メディアを通して江原氏は訴えるが、その理由が、生まれ変わっても同じ課題は残っており問題は一つも解決していないからと言うだけに留まっている。それについて宮崎氏は、江原氏には自殺を思いとどまらせ、「死ぬよりも生きよ」と説得する説明がないと、江原氏に批判的な見解を述べている。
本書にはこの対談の他に9編もの興味深い論文が含まれている。その1つ、堀江宗正・聖心女子大学准教授の「メディアの中のカリスマ」でも江原氏が取り上げられ、江原氏が言う「宗教」が本当に宗教と言えるかどうかについての課題が投げかけられている。もし宗教の定義が、体験や理性を超えるものを対象とするのであれば、霊体や輪廻転生を説く江原氏も宗教家と言えるであろうが、もし江原氏がメディアだけを伝達のルートとし、教団の形成や、宗祖という形を取らなければ、彼は宗教家とは言えないのではないかという事についても検討すべきではないかと述べている。
また、これ以外の論文の題目も「西洋とイスラムの衝突」、「ステレオタイプ化する宗教的リアリティ」、「ヴァーチャル参拝のゆくえ」、「マンガと宗教の現在」、及び「現代メディアにおける「神話」」等、刺激的な課題を内容とする論文ばかりだ。
最後にもう一つ興味深いことがこの本には言える。それは、この本が仏教を「伝達するルート」の違いだけではなく、「伝達される内容」も、専門家が理解する内容とは異なるのを、明らかにしていることだ。メディアが伝える仏教や宗教の内容とは、神秘・オカルト・占い・生まれ変わり等に関する思考や感性だけをくすぐる、刺激的な面がほとんどであり、仏教・宗教の本質である悟りや慈悲や愛という面はほとんど取り上げられないと言う。
私はこの本により、メディアが作り出すこのような溝について、仏教を伝えようとする人々がよく認識しながら、その溝を埋める努力をする必要があるという事に気づかせられた。