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ダライ・ラマ法王に池上彰さんと「生きる意味」について聞いてみよう
書評
  • ダライ・ラマ14世 (だらいらま14せい)
  • 池上 彰 (いけがみ あきら)
  • 出版社・取扱者 : 講談社
  • 発行年月 : 2010年12月1日
  • 本体価格 : 本体1,429円+税

はじめに
第一章 生きる
第二章 愛について
第三章 格差について
第四章 怒りと許し
第五章 信仰について
第六章 ダライ・ラマ法王について
第七章 日本について
第八章 世界のゆくえ
あとがきにかえて 若者が未来をつくる(池上 彰)
チベット、ダライ・ラマ法王について

本書の生まれる経緯については「2010年6月、横浜。ジャーナリストの池上彰さんと大学生100人が、一冊の本を編むために、ダライ・ラマ法王を囲んで「生きる」とはどういうことか熱く語り合いました」と書かれていることから知られる。
若者からの質問とそれへの法王の解答を、本書は次の八章に分けて編集している。第一章「生きる」、第二章「愛について」、第三章「格差について」、第四章「怒りと許し」、第五章「信仰について」、第六章「ダライ・ラマ法王について」、第七章「日本について」、第八章「世界のゆくえ」である。

本書を通読してみて、評者はダライ・ラマ法王の解答の姿勢にまず感銘を受けた。若者たちの「自分の人生をどう生きればよいか」などの質問に、高い権威から仏教の哲理をふりかざして教える態度は微塵もなく、一緒にこの人生を歩む仲間として、真摯に向き合って答えていることである。そうしたQ&Aのなかで、彼は、私たちの 人間としての目標と、あるべき生き方を語る。たとえば次のようである。

まず「生きる意味って何ですか?」という質問に、それは「幸せな人生」である、「幸せな人生を実践することが、私たちの生きる目的なのです」と答える。そして更に「自分が“幸せになりたい”と思っているのと同じように、ほかの人も“幸せになりたい”と思っているのです」、だから「自分と他者とは同じなのです」と論理展開する。

それでは私たちが求める「“幸せに生きる”とはどういうことですか?」、この質問に法王は「幸せをもたらすものは何か」という側面から答える。それは「富や名声ではない」、「常に正直であり、真実であるということです」、また「オープンになるということです」、そうすれば「周りの人との信頼が生まれます。信頼が生まれれば本当の友情がうまれます」、それが「幸せ」な生活を実現させるのですと説く。

法王の考え方の基本に見えてくるコンセプトは、「人間は生まれた時から同じ人間である」、「すべてのものは関係しあって存在している」、「愛情をもち、正直であれ」、「常にポジティブであり、プラス思考であれ」などで、大乗仏教の理念、とくに縁起の教えから導きだされたものである。よくもこれほど分かりやすく消化して語られたものだと思う。

この本は、若者を対象にして語られたものではあるが、むしろ仏教をいたずらに難しく説き、権威づけようとしがちな我々僧侶にこそ推奨されるべきものであろう。


評者:上山 大峻(龍谷大学元学長)


掲載日:2011年5月13日