- 出版社・取扱者 : 法蔵館
- 発行年月 : 2014年10月10日
- 本体価格 : 本体4,000円+税
目 次 |
総論 灌頂とは何か(森 雅秀) 古代インドのヴェーダ文献にみられる灌頂(土山 泰弘) 大乗経典における授記と灌頂(鈴木 隆泰) インド密教における灌頂の展開(杉木 恒彦) ヒンドゥー教タントリズムにおける灌頂―聖典シヴァ派の例から―(井田 克征) ヴィシュヌ教の灌頂儀礼(引田 弘道) チベットの密教の灌頂の構造―ゲルク派の場合―(平岡 宏一) 灌頂―ネパール仏教徒はどのようにして仏になるか―(吉崎 一美) 唐代の灌頂―とくに密教宣布の手段としての灌頂儀礼について―(岩崎 日出男) 禅観経典にみられる灌頂のイメージについて(山部 能宜) アンコール王朝における灌頂儀礼(高島 淳) 空海の伝えた灌頂(武内 孝善) 日本中世における灌頂・修法空間の展開(冨島 義幸) 中世日本の即位灌頂と文化相伝の系譜(松本 郁代) 立山山麓芦峅寺の布橋大灌頂―日本の民間信仰にみる「灌頂」儀礼―(福江 充) 灌頂と真言八祖画像(内田 啓一) 灌頂年表 あとがき(森 雅秀) |
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灌頂とは頭に水を注ぐ儀礼であり、とくに密教で重視される。本書は「灌頂」という儀礼を取り上げ、広くアジア諸地域の各時代における、その成立、実態、受容・変容について、各分野の専門家が取り組んだ、研究論文集である。編者は仏教文化史、特に図像、儀礼に造詣の深い森雅秀教授(金沢大学)。
灌頂儀礼は一般には「修行階梯を終えた弟子に阿闍梨の位を授ける儀式」などとされ、空海が日本に伝えて以来本邦でも脈々と実践されている。その原義は古代インド語で(頭に)「水をそそぐこと」を意味し、古代インドのヴェーダ文献(バラモン教の聖典)にまで遡る「古代インドの国王即位儀礼に起源を持つ」と見なされながらも、それ以上の解明が従来試みられてきたとは言い難い。この常識の殻を破り、具体的かつ仔細に灌頂儀礼を検討しようとするのが本書である。各論文はそれぞれ視点も扱う領域も異なるが、総論が全稿に触れつつ要点を解説している。これを導入として、興味のある章に読み進むのがよいだろう。未解明な部分が多い領域を扱っており、それだけに非常に興味深い研究成果である。
評者:日野 慧運(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)
掲載日:2015年3月10日