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浄土思想論
本の紹介
  • 末木 文美士 (すえき ふみひこ)
  • 出版社・取扱者 : 春秋社
  • 発行年月 : 2013年7月25日
  • 本体価格 : 本体2,200円+税

はしがき
第一章 現代における浄土教の課題
第二章 念仏の源流
第三章 仏教の東アジア的変容
第四章 浄土教における現世と来世
第五章 本覚思想と中世仏教
第六章 新しい親鸞像をめざして
第七章 清沢満之における宗教と倫理
初出一覧

 

鎌倉時代に凝然という学僧が、『浄土法門源流章』という書籍を残している。これは当時の浄土教思想史とも言うべきもので、インドから中国、そして日本に至るまで、浄土教の広まりを詳細に記したものである。また、近代には鈴木大拙が『浄土系思想論』という書籍を残しており、これは浄土教について、大拙が自らの思うところを自由に論じたものである。

今でこそ、浄土教と言えば浄土真宗や浄土宗などを想起されることが多いが、凝然は東大寺で活躍した華厳宗の僧侶であり、大拙は鎌倉円覚寺で釈宗演に参禅し、禅を世界に広めたことで名高い。浄土教というものは、本来、宗派という枠を超えて語ることのできる懐の深さを持っており、本書の著者も、こうした視点に立って浄土教を自由に論じている。

著者は日本仏教を専門とする仏教学者であるが、仏教への現代的なアプローチも得意としており、本書においても、浄土教の持つ可能性について言及している。たとえば、葬儀について多々議論のある現代であるが、死者と生者との関わりや、来世と現世との交わりといった事柄について、再考を促している。近代になって、死後の世界を語ることは、一義的に「迷信」として片づけられてきた側面がある。しかし、こうした合理的に解明できない部分を、私たちと密接に関係するものして、浄土教は描いている。もう一度、浄土教を根底から見直し、葬儀や死者、死後の世界について、突き詰めて考えていくことは必要なことであろう。

本書は著者の講演録に大幅な加筆をしたものであり、この他、親鸞聖人についても論及している。宗派的な都合をかなり含んだ近代親鸞像について、『教行信証』の読み直しなどを通して、見直していく必要もあると言う。宗派の枠組みにとらわれない論として、本書は浄土教への新たな見方を示しており、学びを進めたい人にとって有益な一冊である。


評者:伊東 昌彦(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2013年11月11日