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神道・儒教・仏教 江戸思想史のなかの三教
本の紹介
  • 森 和也 (もり かずや)
  • 出版社・取扱者 : 筑摩書房(ちくま新書)
  • 発行年月 : 2018年04月10日
  • 本体価格 : 本体1,100円+税

序章 近世の思想と宗教を見る視点
I 交錯する思想たち
 第一章  幕藩体制と仏教
 第二章  儒教という挑戦者
 第三章  国学と文学
II 復古から生まれた革新
 第四章  天竺像の変容
 第五章  ゴータマ・ブッダへの回帰
 第六章  仏教の確信と復古
 第七章  宇宙論の科学的批判
III 《日本》というイデオロギー
 第八章  キリスト教との対峙
 第九章  《日本》における他者排除のシステム
 第十章  歴史と宗教
IV 近世的なるものと近代的なるもの
 第十一章 庶民の信仰
終章 近代への傾斜
あとがき
事項索引
人名索引

本書は在家仏教協会の月刊誌『在家佛教』の連載「神儒仏の江戸時代」をまとめたものである。

江戸時代、日本の主な宗教は仏教、儒教、神道であった。この三者は互いに影響し合いながら、また政権の意向や蘭学などの影響を受けながら、展開していった。その様子を本書は解説していく。

論点は多岐にわたっているが、評者に興味深かったのは、天文学と仏教の関係についてである。本書によれば、江戸時代にオランダから西洋の天文学が伝わり、それが与えた影響は小さくなかった。なぜなら、それまで仏教が説いてきた宇宙論と、天文学の成果は異なっているからである。商家出身の思想家・山片蟠桃(やまがたばんとう)は、仏教の宇宙論は天文学が発達する以前の説であって、擁護するに値しないと判じている。これに対して、蘭学者で洋風画家の司馬江漢(しばこうかん)は、仏教の宇宙論は虚妄だと切り捨てられるべきものではなく、教えを説く際の方便として理解するべきだと述べた。僧・円通(始めは日蓮宗であったが後に天台宗に転じた)は、天文学の語る宇宙の様相は俗人の目に映るものであって、仏教の宇宙論は天眼(修行によって得られる特殊な眼力)の持ち主が見ることのできる真実の姿だと論じた。司馬江漢と円通の論法は異なるが、いずれも「科学において正しいこと」と「仏教において正しいこと」を分離している。このように、現代と通じる論点が江戸時代から語られていたのであった。

著者が「日本人の意識は表面的には欧米化されたように見えるが、深層は江戸時代と地続き」(「序章」)と言うように、江戸時代の思想は現代にも種々の影響を残している。現代の思想を考えるうえでも、本書は有益と言えよう。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2018年6月11日