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親鸞と日本主義
本の紹介
  • 中島 岳志 (なかじま たけし)
  • 出版社・取扱者 : 新潮社(新潮選書)
  • 発行年月 : 2017年8月25日
  • 本体価格 : 本体1,400円+税

序章  信仰と愛国の狭間で
第一章 『原理日本』という悪夢
第二章 煩悶とファシズム-倉田百三の大乗的日本主義
第三章 転向・回心・教誨
第四章 大衆の救済-吉川英治の愛国文学
第五章 戦争と念仏-真宗大谷派の戦時教学
終章  国体と他力-なぜ親鸞思想は日本主義と結びついたのか
あとがき
引用・参考文献

本書は、主に南アジア地域研究と近代日本政治思想を専門とする著者が、季刊誌『考える人』(新潮社)での連載をもとに、大幅な加筆・修正を施し、新たな書き下ろしを加え書籍化されたものである。

本書はまず、昭和初期に親鸞思想を土台に国粋主義を語る人々がいたという事実を指摘する。その上で、「なぜ親鸞思想は日本主義と結びついたのか」との問いのもと、三井甲之、蓑田胸喜、倉田百三、亀井勝一郎、吉川英治、暁烏敏などの知識人・文学者・宗学者たちを取り上げる。そして、それらの人物の生涯を巧みに描き出しながら、その人生の転機―挫折や転向など―において如何に親鸞思想に傾倒し、そして親鸞思想を依りどころとして日本主義ないし戦争の大義を説いていたことを明らかにしている。

特に注目すべきは、親鸞思想と日本主義が結びついた要因について、これを親鸞思想に内在する問題として論じている「終章」であろう。著者は国体論やその土台となった国学に対する従来の研究をもとに、国学の思想構造が浄土教のそれをもとに構築されていると述べ、「そのため、親鸞の思想を探究し、その思想構造を身につけた人間は、国体論へと接続することが容易になる。多くの親鸞主義者たちが、阿弥陀如来の「他力」を天皇の「大御心」に読み替えることで国体論を受容して行った」と記す(ただし、著者は「親鸞思想が必然的に日本主義化する訳ではない」とも言う)。

また、本書の第五章では、「時代相応の教学」の名のもとに戦時教学が構築されていく様子が明らかにされている。教学と社会の関係は現在においても重要な関心が持たれている。このような点に関心を抱く者にとっても、本書は資するところが多くあり、親鸞聖人の思想と社会との関係を考える上でも必読の書であるといえよう。


評者:小野嶋 祥雄(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2017年12月13日