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シルクロード紀行 正倉院へとつづく道
書評
  • 読売新聞大阪本社 (よみうりしんぶんおおさかほんしゃ)
  • 奈良国立博物館 (ならこくりつはくぶつかん)
  • 出版社・取扱者 : ミネルヴァ書房
  • 発行年月 : 2012年6月30日
  • 本体価格 : 本体2,000円+税

はじめに
第1章 世界の宝が運ばれた十字路−ホータン〜西安/二〇〇五年
第2章 仏の教えが伝えられし道−ガンダーラ〜洛陽/二〇〇六年
第3章 騎馬民族の興亡を映す文様−スイアーブ〜メルブ/二〇〇七年
第4章 宝飾に見るペルシャの興亡−ニシャプール〜シーラーフ/二〇〇八年
第5章 今も息づく唐土・新羅の技−開封〜慶州/二〇〇九年
第6章 五絃琵琶の伝えられし天竺−アジャンタ〜バラナシ/二〇一〇年
第7章 天下一の名香を訪ねて−ドンナイ〜ホイアン/二〇一一年
解説
初出・執筆者一覧

シルクロードの東の終着駅といわれる奈良の正倉院には、西域よりもたらされた多くの文物が含まれている。読売新聞社がそれら文物のルーツを訪ねて取材旅行を企画し、2005年から2011年にかけてその紀行文を「シルクロード行」と題して新聞紙上に連載して人気を博した。本書は、それに奈良博物館関係の専門家によるコラムや図版を付して再構成・刊行したものである。

聖武天皇(724〜749在位)の遺愛品であったという正倉院御物に西域の匂いの濃い文物が多く保存されている。螺鈿(らでん)の箜篌(くご)、紫檀五絃琵琶(したんのごげんびわ)などの楽器、漆胡瓶(しっこへい)、白瑠璃椀(はくるりのわん)などの生活用具などである。楽器だけでも18種75点が収蔵されているという。美しい螺鈿の文様に心をうばわれ、それが奏でられる故国クチャの情景を幻想してしまう。本書は、その幻想を現地に行って確かめてみようという試みである。

正倉院の収蔵品には、仏教儀式に用いられた仏具類も多い。紫檀金鈿柄香炉(したんきんでんのえごうろ)や聖武天皇が着用されたという七条袈裟などである。各種の香木も保存されている。なかでも注目すべきは蘭奢待(らんじゃたい)と名づけられている黄熟香(おうじゅくこう)である。調査班はその原産地がベトナムであることをつきとめて訪問し、本書にそれを報告している。西域からだけではなく南方からも文物が集まっていたのである。おそらく当時の長安には、エジプト、ペルシアをはじめ、シルクロード上の各オアシス都市から珍しいものが集まり、聖武天皇がそのあくことなき異文化への好奇心から、遣唐使に命じてそれらを入手したのであろう。ソグド人などの商人もそうした文物交流に跋扈していたに違いない。

われわれ日本人は、なぜか西方はるかな異国になつかしさをおばえる。夕焼けの輝きに極楽浄土を幻想するからであろうか、日本人のこゝろの水脈である仏教の故郷が西方にあるからであろうか。正倉院の品々にみる西方への憧憬に、聖武天皇もまた同じ思いにあったのではないだろうかと1250年の時間を超えて思うことである。


評者:上山 大峻(龍谷大学元学長)


掲載日:2012年10月10日