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浄土系思想論
本の紹介
  • 鈴木 大拙 (すずき だいせつ)
  • 出版社・取扱者 : 岩波書店(岩波文庫)
  • 発行年月 : 2016年7月15日
  • 本体価格 : 本体970円+税

極楽と娑婆
浄土観・名号・禅
浄土観続稿-『浄土論註』を読みて-
他力の信心につきて-『教行信証』を読みて-
我観浄土と名号
解説(木村宣彰)

鈴木大拙(1870~1966)は禅の研究に努め、禅を海外に紹介したことで知られている。それだけではなく、浄土教についても独自の視点から種々論じてきた。本年は著者没後50年にあたる。本書は、著者による浄土教に関する論考5編をまとめたものである。

その一つ「極楽と娑婆」において、著者は浄土(極楽)とこの世(娑婆)の関係を論ずることを、宗教生活の根本に関わる問題と捉えており、「人間世界或(あるい)は地獄と天国と云ってもよく、地上と天界と云ってもよいが、(中略)この二つの世界を持たぬ人間があるとすれば、(中略)まだ本当に人間生活の意義について考えたことのない人間と云ってよい。」(5ページ)と言いきる。両者の関係について、一般的には浄土は死後に往生する世界であり、西方にあると理解される。しかし著者は、「娑婆と極楽は、時間的にも空間的にも、隔絶してるものではない」(7ページ)と述べ、それは感覚や知性と異なる「霊性」によって領解されると言う。これは、禅に通じ、人間の分別を離れた「宗教体験」を追究してきた著者ならではの視点であろう。本書では浄土を論ずるにあたって、『無量寿経』など浄土教の経典や親鸞聖人の著述はもとより、禅の語録をもたびたび引用する。

浄土の問題に限らず、宗教で論じられる課題にはしばしば、人間の知性では計り知れないものがある。仏教においても、真実そのものは言語での表現を超えているとされる。その領域をどう理解し、伝えるか。本書は、この課題に挑んだ一つの成果である。


評者:多田 修(浄土真宗本願寺派総合研究所研究員)


掲載日:2016年9月12日