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日本人のこころの言葉 源信
本の紹介
  • 小原 仁 (おばら ひとし)
  • 出版社・取扱者 : 創元社
  • 発行年月 : 2016年5月10日
  • 本体価格 : 本体1,200円+税

はじめに
言葉編
 I 人として生まれ、三宝に出会う
 II 三界は安きことなし
 III 浄土へのいざない
 IV 信心の心構え
生涯編
 略年譜
 源信の生涯

本書は「日本人のこころの言葉」というシリーズの一冊である。

源信は、比叡山横川(よかわ)の恵心院に住したことから恵心僧都とも称され、主著『往生要集』は当時の社会に大きな反響を呼び、日本に浄土教を広めることとなった。おりしも本年(2016年)、比叡山延暦寺において、「恵心僧都一千年遠忌法要」が、浄土真宗本願寺派を含め、僧都とゆかりがある9つの宗派によって順番に修行された。それほどまでに今日の日本仏教と関係が深い源信の著作から、こころに残る言葉を取り上げて紹介したのが本書である。

本書は2編から成る。【言葉編】では、著者が「源信は説法僧ではありませんから、とくに意識して記憶に残るような言葉を選んだりはしませんでした。あるのは今風にいえば学術書ばかりですから、もし心に沁み入るような言葉があるとしても、そのような著作の堅苦しい用語の海に沈潜しているに違いありません」(4ページ)と述べるように、源信の著書は膨大な分量を誇るが、基本的には難解な仏教教理を解釈することに重点が置かれており、心に響く言葉を見出すこともままならない。

しかし、本書はそのなかから40ほどをピックアップし、現代を生きる私たちへのヒントとなるような解説を施している。注目すべきは、その選定が単なる“いい話”に終始していないところである。すなわち本書の構成からは、「人として生まれ、仏教に出遇う」、「私たちが生きるのは苦の世界である」という仏教における価値観や真理、そして「苦の世界を離れた浄土への誘い」、「浄土に往くための心構え」という私たちの生活の指針までを読み取ることができ、この一冊で仏教における考え方を総括していると言うこともできよう。

【生涯編】では、源信の生涯が最新の研究成果を交えてまとめられ、源信の人物像に迫るのに格好の一書といえる。

一冊の本として全体を通して読むも良し、自身が置かれた状況によって一つの言葉をピックアップして味わうも良し、源信の生涯を学ぶのにも良しの、三拍子揃った座右に置きたい一書である。


評者:佐竹 真城(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2016年8月10日