- 出版社・取扱者 : 本願寺出版社
- 発行年月 : 2016年3月1日
- 本体価格 : 本体700円+税
目 次 |
はじめに 第一章 現代人が見失った死のゆくえ 第二章 いのちの源を訪ねて 第三章 人間らしく生きる 第四章 生老病死の解決 参考文献 講演・初出一覧 あとがき |
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医師であり、浄土真宗本願寺派の住職である著者が、何故に「いのち」が尊いのかを問うた一冊である。
著者は、赤ちゃんが生まれてくることは「人生最大の難事業をやり遂げること、とても苦しい試練をくぐり抜けてくる」ことだから、「いのちの奇跡」であり、「人間は生まれてきたということ自体が、すばらしい」と述べる。
人は生まれてくれば、いずれ死を迎える。だが、その現実から人は目を背けがちであり、現代はそれが顕著であると指摘する。それに対して著者は、葬儀の意義を強調する。人が亡くなると悲しむ人がおり、その姿を見ることで「いのちは自分自身一人だけのものではない。いのちはいろいろな所に共鳴して広がっていき、人に共感を及ぼしていく」ということを実感していく。それだけではなく、葬儀には「亡くなった人との関係を見直しけじめをつける」意義があると記す。すなわち、葬儀は亡き人のためだけでなく、残された者にとっても大切なのである。
「いのちの大切さ」を伝えることの重要性がしばしば言われるが、著者は「いのちの大切さは言葉だけでは伝わりません。(中略)大人が愛する人や大切な人の死を悲しむ姿から、あるいは大人自身が老い、病み、死にゆくその姿から、子ども達はいのちのつながりや深さ、あるいはいのちの不思議さや大切さを感じとっていきます。」と述べる。「いのちの大切さ」は、「いのち」が失われるものであると体験することで、徐々にわかっていくのである。
こういったことは、著者が医療と仏教の両方に通じているからこそ、書けることであろう。現代社会では効率が求められるが、「いのちの尊さ」は効率で決められるものではない。効率とは別の価値観を教えるのが仏教である。本書は、「いのちの尊さ」を通して、現代における仏教の意義を明かしていると言えよう。