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親鸞 主上臣下、法に背く
本の紹介
  • 末木 文美士 (すえき ふみひこ)
  • 出版社・取扱者 : ミネルヴァ書房
  • 発行年月 : 2016年3月10日
  • 本体価格 : 本体2,800円+税

はじめに
第一章 親鸞と鎌倉仏教
第二章 若き親鸞
第三章 思想の成熟
第四章 晩年の親鸞
第五章 伝承と物語の形成
終章  親鸞をどう読み直すか
主要参考文献
関係資料
あとがき
親鸞年譜
事項索引
人名・神仏名索引

親鸞聖人の事跡についての研究はこれまで、後世の文献よりも同時代の記録を重視する、実証主義にもとづいて行われてきた。本書はそれを踏まえた上で、単に歴史的事実を求めるに留まらない。著者の専門分野である思想史という観点から、文献上の記述の背景にどのような意図があるのかを追究していく。

これまで、親鸞聖人の思想は『歎異抄』をもとに語られる傾向があった。著者はこの傾向を疑問視し、親鸞聖人の主著『顕浄土真実教行証文類』(『教行信証』)を体系的に全体から検討する必要を述べている。親鸞聖人の思想解釈の中で、1.「他力」を説くことは、ボランティア活動など社会的実践を否定することなのか、2.私たちが死後に何を為すか考えるのは無意味なのか、3.親鸞聖人の思想は他の仏教宗派と全く異なっておりもはや仏教とは言えないのか、という点について、本書はいずれにも否定的に答えている。

従来、浄土に往生する往相回向と、往生した後にこの世に戻って衆生を救う還相回向の二種廻向について、還相回向のはたらきは阿弥陀如来の側だけのことであるという見方があった。しかし著者は、私たちが社会的実践など自力と思っていたことも、実は還相回向のはたらきによるのであり(ここには阿弥陀如来だけでなく「死者の活動」がある)、「往相・環相回向は、大乗仏教の実践構造をきわめて的確に表わすものである」と論ずる。

本書は浄土真宗の生活、生き方という点で親鸞聖人の思想を再解釈したものであった。「学問」としてではなく「実践」として歴史を振り返る。親鸞聖人は800年もの時を越え、今もなお私たちに語りかけてくれているのである。


評者:橋本 順正(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2016年5月17日