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平安京と中世仏教
本の紹介
  • 上川 通夫 (かみかわ みちお)
  • 出版社・取扱者 : 吉川弘文館
  • 発行年月 : 2015年10月1日
  • 本体価格 : 本体2,800円+税

中世仏教からみる平安京 プロローグ
Ⅰ 東アジア世界と平安仏教
  第一章 王朝都市の仏教とその救済力
  第二章 平安京と寺院の配置
  第三章 摂関期仏教のゆくえ
  第四章 院政期仏教の創出
II 仏教都市平安京
  第一章 一日の仏事-嘉保二年九月二十四日
  第二章 一年の仏事-永久元年
  第三章 塔に囲まれた平安京
III 新しい仏教の時代
  第一章 究極の秘密仏事
  第二章 平安京の民衆と仏教
内乱とその後 エピローグ

あとがき

鴨長明の『方丈記』と言えば多くの人が知っていることだろう。冒頭は「ゆく河の流れは絶えずして…」、である。随筆として仏教的無常観に触れることができるとともに、平安時代末期の平安京の様子を知ることもできる。天災についての記録もあり、災害記録としての史料価値も高い。『方丈記』は本書のオープニングの一端を飾る。そしてラストにも再び登場するわけだが、本書の目線は災害ではなく仏教にある。

鴨長明は出家しており、その視点で記された『方丈記』は仏教書と言える。しかし、『方丈記』に書かれたことは、一見仏教的であっても、極めて政治的な側面を持つ出来事がある。たとえば、隆暁法印(りゅうぎょうほういん)による餓死者の供養。これは、養和の飢饉(1181~1182)において平安京に餓死者が大量に出た際、仁和寺の隆暁法印が死者の供養を行い、仏縁を結ばせたという故事である。鴨長明は純粋に供養として受け取るわけだが、本書はその背景に政治的な思惑があったことを指摘する。当時の後白河上皇は仏教を利用して自らの権力を主張しており、隆暁法印による餓死者の供養はその一環であった。これは、当時の平安京における仏教のあり方をよく示していよう。

著者は「平安京で展開されてきた仏教は、後白河院が権力事業で推進したような支配思想を正統としている」と言い切る。しかしそうした中で、「生活と結びついて求められた仏教が根づきつつあるという、時代の新傾向が認められる」とも述べる。本書の着眼点は「王朝権力」と仏教の関係にあり、それを無視しては日本仏教(とくに平安期)は語れないとも言えるだろう。


評者:伊東 昌彦(浄土真宗本願寺派総合研究所委託研究員)


掲載日:2016年2月10日