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親鸞聖人の越後流罪を見直す
本の紹介
  • 今井 雅晴 (いまい まさはる)
  • 出版社・取扱者 : 自照社出版
  • 発行年月 : 2015年6月30日
  • 本体価格 : 本体800円+税

発刊のことば
はじめに
流罪に関する従来の見方と問題点
貴族の出身 親鸞聖人
念仏禁止の実際
後鳥羽上皇の処断
流罪と流刑地
なぜ流刑地が越後だったのか
越後国での実際の生活
後鳥羽上皇への非難
親鸞聖人は越後流罪を嫌がってはいなかった
おわりに
あとがき

親鸞聖人の生涯の中で、その後の人生を決めることとなった大きな出来事はおおよそ次の3つであると思う。1、恵信尼様との出会い。2、法然聖人との出会い。そして3、越後流罪である。

なぜ流罪先が越後国だったのか。親鸞聖人の伯父・日野宗業は流罪の1か月前、越後権介に任命されている。宗業は九条兼実、そして流罪を決めた後鳥羽上皇にも仕えていた。また恵信尼様の出身である三善氏も越後国と関係が深く、決して偶然というわけではなかった。

流罪というと、厳しい生活が待ち受けており聖人も田んぼに入って苦労されたのだろうと今までは考えられてきた。しかしそれらは江戸時代の価値観にもとづくものである。著者は「経済的・身分的には保障されていました」(75ページ)と述べ、それらを否定している。

では親鸞聖人は楽をして遊んでいたのか。そんなことはない、違った意味での苦労があった。著者の言葉を借りれば「たった一人で信心の念仏の学びを続けなければならなかった」(72ページ)という点である。絶対的信頼を寄せていた法然聖人も、切磋琢磨を出来ていた同輩たちもいないのである。

著者は「流罪がなければ、越後国に行くことはなかったし、関東に移ることもなかった。京都さえ出ることがあったかどうか。つまるところ、流罪がなければ今日の浄土真宗はなかった」(74~75ページ)とも述べている。歴史学の進歩より、聖人の越後流罪に対するこれまでの理解に対して、見直すべき点が明らかとなってきた。その重要性を示す一冊である。


評者:橋本 順正(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2015年11月10日