- 出版社・取扱者 : 吉川弘文館
- 発行年月 : 2014年5月1日
- 本体価格 : 本体1,700円+税
目 次 |
神仏と出会うために-プロローグ 自然と神仏と中世びと 仏の時間と社会 祖師に接する 人と人との絆 神仏との出会い方-エピローグ あとがき |
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本書は、神仏と中世(平安末~室町)の人々の関わりを追った一冊である。
中世の人々は仏と遇うことを期待する気持ちが強かった。貴族などは臨終時に仏の来迎に預かって極楽に往生しようと、多くの仏像や仏堂を造った。しかし、これが可能な人々は限られる。それに対して親鸞聖人は、臨終時の来迎ではなく信心により往生が決定すると説き、「南無阿弥陀仏」など仏名を記した名号を本尊とした。こうした鎌倉期の浄土教の影響により、信仰のあり方が変化した。親鸞聖人以後に描かれた来迎図はそれ以前と比べて仏・菩薩の数が減少し、さらに仏名を記した文字それ自体が仏と認識されるようになった。
また、中世には祖師から直接教えを受ける「面授」が特別視されていた。祖師の御影(絵像)を安置することは、祖師と面授することでもあったのである。さらに、信仰を共にすることは、人間同士の絆となるものでもある。信仰は、人間と神仏そして人間同士の「絆」を形成するものであった。
中世の人々は動植物や自然現象に神仏を見て、自然を従わせるのではなく、畏敬の念をもって接することで、自然(そしてその背景にある神仏)と共生しようとした。しかし江戸時代になると「神仏の権威」が低下し「人間優位」の方向へ進み、明治以降それが加速した。こうした経緯を踏まえ著者は、近代社会の「進歩」から切り捨てられたものに「今の課題や問題を解き明かす重大なヒントがある」(199ページ)と述べる。日本において、環境問題などは信仰のあり方と密接に関わっているのである。
本書は、単に中世の信仰のあり方を知るためだけでなく、現代のさまざまな課題を解く手がかりとなるであろう。