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聖地巡礼ビギニング
本の紹介
  • 内田 樹 (うちだ たつる)
  • 釈 徹宗 (しゃく てっしゅう)
  • 出版社・取扱者 : 東京書籍
  • 発行年月 : 2013年8月23日
  • 本体価格 : 本体1,500円+税

まえがき(内田 樹)
chapter0 キックオフトーク どこに行こうか?聖地巡礼
chapter1 大阪・上町台地 かすかな霊性に耳をすませる
chapter2 京都・蓮台野と鳥辺野 異界への入り口
chapter3 奈良・飛鳥地方 日本の子宮へ
あとがき(釈 徹宗)

本書は思想家であり武道家でもある内田樹氏と、浄土真宗僧侶であり宗教学者でもある釈徹宗氏との対談をまとめたものである。ただ、対談と言っても堅苦しいものではなく、ほとんどが聖地を巡りながらの会話であり、その時々の直感的な物言いが散りばめられている。

『らき☆すた』(美水かがみ作のマンガ)の舞台となった鷲宮神社(埼玉県久喜市)は、多くのファンが聖地巡礼に訪れることで有名だ。こうした聖地巡礼は、かならずしも宗教施設と結びつくわけではないが、巡礼によって得る精神的満足感は高いのであろう。しかし、その「聖地」が長きに渡り人を惹きつけ、存在するだけの力を有しているかと言えば、やはり一時的なものとして見るべきかもしれない。もとより聖地というものは、何らかの信仰に基づいて発生するのであるが、そこを訪れる人の感覚に訴える何かがあるからこそ、長きに渡って存在し続けるのである。本書において、内田氏はしばしば「霊性」という言葉を使う。これは、知識によらず直感的に人を惹きつけるような精神性を指す。

本書では、内田・釈両氏が大阪、京都、奈良を巡り、霊性を感じ取っていく。釈氏が案内人を務め、内田氏の感受性豊かな問いかけに応じていく。例えば京都では鳥辺山から清水寺に抜けたところ、つまり大谷本廟で感覚の高まりはピークとなる。清水寺は死者供養のための寺院であり、大谷の地が古くから死者の谷であったことを実感する。

日頃、何げなく過ごしている土地であっても、見方によってはまったく別の顔を見せることがある。本書は見慣れた風景に潜む「霊性」を感じ取る、聖地巡礼のための入門書と言えるものである。


評者:伊東 昌彦(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2014年2月10日