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ブッダから、ほとけへ 原点から読み解く日本の仏教思想
本の紹介
  • 立川 武蔵 (たちかわ むさし)
  • 出版社・取扱者 : 岩波書店
  • 発行年月 : 2013年1月24日
  • 本体価格 : 本体2,900円+税

はじめに いま仏教の持つ意味とは
ブッダから
 1  無明
 2  ヨーガ
 3  慈悲
 4  空
ほとけへ
 5  浄土
 6  如来
 7  マンダラ
 8  色即是空
 9  仏性
 10 供養
 11 禅
 12 念仏
おわりに

「ブッダ」と聞くと、どんなイメージを持たれるだろうか。仏教を連想される方は多いかもしれないが、ご近所のお寺さんと結びつく方は、あまりいないかもしれない。ご近所のお寺さんと言えば、やはり「ほとけ」さま。あまり人間的ではなく、慈悲あふれるお顔であっても、どこか超越しているような、そんなイメージではなかろうか。

本書の著者はインド哲学と仏教思想史を専門とする研究者であるが、母は浄土真宗の熱心な門徒であり、著者自身も「正信偈」のリズムを覚えている。しかし、大学で初期仏教の経典を学んだとき、そこで述べられる「ブッダ」のイメージは、お仏壇のなかの「ほとけ」さまとは随分違うものであったと言う(本書では、「ブッダ」を仏教の開祖の意味で、「ほとけ」を大乗仏教における救済者としての如来の意味で用いる)。

初期仏教において、「ブッダ」は修行者のモデルである。迷いから悟りに至るためには、戒律を守りながらの長い修行が必要となる。しかし、大乗仏教においては、阿弥陀仏などに帰依することを介して、悟りはより近くに感ぜられるようになった。この方法は、日本において浄土宗や浄土真宗などに受け継がれている。帰依の対象となるのは、「ブッダ」というよりも、救済者たる「ほとけ」さまである。

本書は「ブッダ」から「ほとけ」へという変遷を糸口に、日本仏教を今一度インド仏教において捉え直し、その潜在力を掻き出そうとする。初期仏教から丁寧に思想を紐解いていくところは、著者の研究が広範なものであることを裏付けていよう。抑制の効かなくなった私たちに、日本仏教はどう道を示してくれるのか。本書は未来に向けて、日本仏教の可能性を問うたものである。


評者:伊東 昌彦(浄土真宗本願寺派総合研究所研究助手)


掲載日:2013年8月12日